the place to stay of you | ナノ


 







あの選択の日から十年の月日が流れていた。その選択こそが今のファイの人格を形成したと言っても過言ではなかった。そんな彼は今、街裏の小さなゲームセンターに足を運んでいる。そこはそんなにも大きくはないその街にある数少ない学生の、溜まり場の一つだ。実はこれはかなり珍しいことで、ファイは普段から街中をふらつくことはあまりなく、昼は河原の土手で安眠を貪っているのが常だった。

でもあそこは紅い眼の彼に会ってしまった場所だから。

あの日からというもの、どうしても軽い気持ちで河原に足を向けることが難しくなっていた。絶好の安息場所であったのだけれど今や心の落ち着けられる場所ではなくなったのだから、足が遠退いてしまうのは自然な流れであった。

家では今も大切な彼が眠っている。できることならば離れることなく眼を覚まさない分身の傍にいつも居たい。けれどそうやって傍に居続けることは同時に不安と見えない重責に押し潰されそうになる。

それに、ファイにはやはり外に出なくてはならない理由があった。二人の存在を近所の人間に知らしめて、不審を避けなくてはならなかったのだ。あの家には、二人の双子が滞りなく生活をしているのだと。

河原と同様に学校にもあの日から行けていなかった。

これ以上彼に関わってはいけない、とボンヤリふらついた頭で考える。今、ユゥイの身に起こっていることは誰にも悟られてはいけないから。


(でもこれって逃げの一手だよねぇ…)

半ば自分に呆れつつもどうにも他の手は打てそうもない。仕方なく思考はそこで停止して、何とかそのことを頭から追い出そうした。軽く掴んでいたハンドルを少し強めに握り直す。機械の画面を眼に映しながら自分にしては珍しいゲームをしているな、なんて感慨なく思う。それでも先程から機体の新記録更新を重ねていた。


余計なことは考えまいとゲームをしながらも、やはりチラチラと頭から離れてくれないクラスメートの紅い眼にファイはため息を吐く。

彼になんて最初から触れなければよかったんだ、なんて今の自分の状態をどうにもならない後悔に結び付けてみたりもする。
ここまでとは流石にかなりの重症だ。寝ても覚めてもあの紅が頭から離れないのだから。

今まで弟のことだけで満たしてきた思考にここ数日のうちに深く介入してくるようになった彼の存在にただ躊躇った。

いっそのこと会わなければどんなにか楽だっただろうと堂々巡りを繰り返す。そんなまどろっこしい気持ちを打ち払いたいかようにファイはゲームのアクセルを更に踏み込んだ。



 容姿が目立つ彼が人目を引きたくない今、どうしてもプレイ可能な機種は限られる。今は一番奥にあったゲームボックスに入っていた。そうして一通り気の済んだ後、陰になっているそこから顔を出した。

その時だった。

眼の端で捕らえたのは見覚えのある独特なテールグリーンだ。それを見て少し息を飲む。

(あれ、ユゥイの学校の)


出来ればその制服の学生にもなるべく今は会いたくない。

しかし、真面目一辺倒なお堅い進学校であるその学校の制服に身を包んだ学生二人が、甚だ場違いなゲームセンターの奥まった喫煙スペースに歩いていくことにファイは首を傾げる。

見たところユゥイとは違うクラスの人間だったが、何か、見覚えのある。
ザワリと嫌に感じるものがあってファイは二人の後を追った。










mae tugi