*
何処までも続いてく
陽のあたる道
あったかい
君となら きっとこのまま走ってける
あまりに気持ちの良い風に 鳥の囀りに 日だまりに
君の背の 温もりに
つい そんな夢を
視てしまいそうになったんだ
*
「わぁー黒たん、白鷺だよう!見てみて―――!」
笑顔満面で楽しそうにファイは赤い後部座席に股がる。運転手にしっかりとくっつきながらも先程から嬉しそうに声を上げている。まるで温かな体温に嬉しさが隠せないみたいに。黒鋼のシャツに時折顔を埋めながらも、自転車の上で猫毛の金髪を揺らしながら嬉々と騒いでいる。
赤い自転車は相変わらずゆっくりと蒼い空を潜ってく。
後ろであまりに無邪気な様子で楽しんでいる彼を不思議に思いながらも、黒鋼は今がチャンスだとばかりに、思い切って口を開いた。
「……明日は来いよ」
「ええ?」
上機嫌のままの表情で聞き返すファイ。
「留年しちまうぞマジで」
「あー…うんー」
やっと黒鋼の意図が通じたのか、声のトーンは落ちて少し元気のない答えが返ってきた。
しかしそれから三秒と間を置かずに殊更明るい声が後部から弾んできた。
「あはは。実はまじめさんなんだねえ〜黒ぽんてば。ほんとはオレよりキツいヤツ吸ってるクセにぃ――♪」
えへへ、タバコ気づいてるんだようーとへらへらしながら話を逸らそうとする彼の魂胆は、見え透いていすぎるのではないだろうか。
いつもの彼のやり口だ。いつだって今のやり方で巧く持っていく。しかし今回は巧く撒かれてたまるか。ここで踏み込まなければきっと永遠に機会はない。
けれど関わってしまったならきっともう、無かったことになんて出来はしない。先日のユゥイの苦々しげな表情と言葉を思い出し、黒鋼は腹を決めるためにもう一度息をつく。
そうだ、このままじゃ前に進めない。だから黒鋼は一気に核心を突いた。
「隠せてねえんだよ」
その言葉にファイの肩がびくりと震えた。
ファイがいくら必死にうまく誤魔化そうとしたって、やっぱりこのクラスメートは思惑通りに目を逸らしてなんてくれなかった。それにしても予想以上に早く訪れてしまったこの状況。ファイは蒼い目を見開いて揺らめかせていた。
そして後悔した。
やはり咄嗟の手段だったからとはいえ、彼に近づくべきではなかったのだ。
「…何か言いてえことはあるか」
その言葉に、黒鋼のシャツを掴む彼の白い拳がただぎゅっと握られた。
「何か」という問いに対して何時もみたいにふざけて話を逸らすこともせず、顔を俯いたまま薄く唇を開いて静かに告げる。
「…………止めて」
その小声を聴きとり黒鋼は音もなく自転車を停車させる。止まったもののファイは動かない。
動けなかったのだ。迷っていたから。実は今の後悔なんて言い訳で、本当はファイ自身、既に限界が見えていたのかもしれなかった。
今までのように全てを隠して、そしてこれからも、全てを背負っていくことに。
いっそ全てを吐露してしまえば、救われなくとも幾分かは楽になるのかもしれなかった。先の見えない今から、誰かに連れて行ってほしかった。自分じゃ抜け出すことの出来ないこの闇から。――光の差す未来へと。
決して今を放棄したい訳じゃない。
けれど、一人で震えているのは。ただ怯えているのは。
もう―――
ファイは、俯いたままゆっくりと自転車から降りた。
無意識に黒鋼に頼り、求めてしまっていた弱い自分を叱咤しながら、掴んでいた彼のシャツを放す。
この手を離すことは苦しいけれど、もう離れなければいけない。
甘えたりしてはいけない。
ファイは今までの道を選び直した。
それはただ願い日陰の道で待つこと。そうやって今まで生きてきたのだから。
二つの顔のうち、影を選んで歩いてきた。そんな人間が、こんなにも真っ直ぐな人に自分の真実を打ち明けてしまうことが堪らなく怖かった。
だから ごめんね。
それでも、気に掛けてくれて嬉しかった。初めて「ファイ」を見てくれたひと。
さよなら――
白い手がゆっくりと
彼の袂から離れていった。
mae
tugi
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