***
淡く光が差す緑の草原。透き通る蒼空。眩しい光、風の音。
取り巻く唄は身を包み、ほら、こんなにも世界は綺麗なのに。
世界は目を開けていられないくらいに、輝いているのに。
だれか 此処へと連れだしてくれたなら
ココじゃない どこかに
◇
もはや特等席と言っても過言ではない何時ものその場所に、ファイは今日ものんびりと寝転がっていた。ただ常とは違うのは、彼の目がしっかりと冴えていること。
口に咥えたタバコの煙をぽわりと浮かべながら、奇妙なあの人のことを考えていた。
(本当に変な人だよ、黒ぴょんは)
クラスメートだけれど、あの時まで話したことなどない。極力誰にも関わらないようにしようとしていたから、あんなにも目立つ人がクラスにいたことさえ、あの日いきなり腕をつかまれるまでは知らなかった。
初めて話してから一週間も経ってはいないというのに、こんなにも彼の存在が燻ったこの心を占める。
このまま流されてしまう訳にはいかないというのに。
気にしまいとしても、やはり、彼のあの強引な距離の詰め方には思わず狼狽してしまう。
あの物怖じなんて欠片もしないストレートな物言い。あの人には何で、オレが「怯えている」なんて見えるわけ?
(どうしてオレなんかに構うの。どうしてオレたちのこと分かるの)
そうやって自分に関わってくる人間について考えるだけで、苦虫を噛み潰したような気持ちになる。そんな風に距離を詰められることなんて全くの初めてで。彼への拒絶を考えれば思うほどに、胸が締め付けられるように苦しくなった。
けれど心の底から沸いてくるその気持ちと対の行為しか、ファイには許されることはない。
無意識に制服の上から胸に手を置き、長い指で生地を鷲掴みながら横を向く。目をぎゅっと閉じて思ってしまう。
あの人のことをもっと知りたい。
小さく肩を縮こめて、その気持ちには懸命に蓋をした。
先日、黒鋼が双子の片割れに言ったことはファイにとってあまりにも衝撃的なものだった。
彼は自分の懸念するあのクラスメートが、偶然双子の家の軒先で片割れと会ったことを知っている。その時に黒鋼が自分たち兄弟に向けた言葉も、知っている。
そしてやりきれなくなった。聞いた言葉に愕然とするしかなかった。
全てが当たりだったから。
核心を突いているわけではないのだけれど。
黒鋼とこれ以上関わればきっと、全てが悟られてしまう。全てが明るみに出てしまう。
ファイにはそんな気がしてならなかった。
風が金糸を揺らしてはそよそよと遊ぶ。居心地のよい、現実に広がる淡い希望という名のまどろんだ夢。そこから小さく覚醒を促すように。風は強すぎず髪を持ち上げて白い頬をはたく。目覚めなさいと。 そう目を、 覚まさなければ。 目を――
「ん?」
目を開けると顔面を覆う影がいくつかあることに気が付く。逆光で顔はわからないが、まさかファイに親しげに話しかけにきたわけではないだろう。
しかし今、決して寝ていたわけではない。いつもある程度は周りの気配に注意しているはずなのに、考え事をし過ぎて人の接近に気づくのが遅れた自分に驚いた。
(もー、こんなの黒りーのせいだよう)
白い光に浮かぶ彼を覗き込む黒い影たちは、不穏な雰囲気でファイに向かって手を伸ばした。
mae
tugi
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