the place to stay of you | ナノ


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翌日は土曜日。公立高校は休日である。

休日のその日、黒鋼はCDを買いにタワレコに向かった。目的の商品を探している間、かかっていた歌に黒鋼はやや気恥ずかしくなる。それは店内にかかっている曲が、よく風呂場で口ずさんでいるものであるせいだ。その曲は歌声が何だか黒鋼に似ているから歌いやすいこともあるのだが、「光を斬る」という題名そのものが気に入っていた。

コホン、と一つ咳払いした黒鋼は目的の品を手に、レジへ向かい帰途へと着いた。





ガタタンガタタン


電車に揺られ、ついでに買った雑誌に目を通す。やがて電車は少し賑わいのある駅で停車した。その駅は某私立進学有名校が駅に隣接している。

他校の高校生たちがばらばらと乗りこんできた。

落ち着いたテールグリーンのブレザーにいかにも重そうな革の鞄。分厚いところを見ると、ずっしりと教科書が入っているのだろう。そのざらついた表面一つとってみても、その学校の風格と重厚さを強調している。


そういえば私立の進学校には土曜にも補講があると聞く。休日なのにご苦労なこった、と何気なく他校の生徒たちにちらと視線を投げた。


するとそこにキラリと光る髪色が混じる。

黒髪の学生ばかりの中に揺れる、不自然なくらいに淡い発色。成る程、どこにでも目立ちたい奴はいる訳か、と黒鋼はやはり何気なくその顔に焦点をあわせた。




「――は?」


思わず声が漏れた。いや、だってその、あり得ないだろう。
そこにはクラレットのタイをきっちりと容好く締め、整った笑顔で微笑む金髪の学生。


「うっわ何コレ。お前、やっぱ今回の校外模試も首位かよ〜」
「まあね」
「か〜!くそう!涼しいカオして言いやがったこいつ!」


なにやらデータ表のような冊子を片手に、黒鋼のクラスでは非日常なこんな会話が繰り広げられている。見まがいようもないその整った顔付きに、ただただ呆気にとられる。声を掛けられる筈もない。



「・・・・・」



黒鋼は普段、決して隙を見せるタイプの人間ではない。しかしこの状況には、開いた口が塞がらなかった。それでもなんとか自分を取り戻した黒鋼は、改めてしげしげとブレザーの学生たちに囲まれる彼を見た。

この淡い金髪。蒼い瞳。通った鼻筋。いくら異国人は日本人の目に似たように映るといっても、間違いない。

こいつはどっからどう見ても、クラスメートの某問題児。
数日前にカツアゲをやらかしていた、あいつだ。



その時不意にパチリとその彼と目が合った。しばらくお互い何も言わないままに顔を見つめあう。ブレザーの彼がピクリと金髪を揺らし、何かを言おうと口を開きかけたその時―


「おい、ユゥイ。何やってんだ行くぞー」
「、、ああ。今行くよ」


(・・・ユゥイ?)

黒鋼はその名を反芻する。

いつの間にか彼らの降りるべき駅に着いていたらしい。先に電車から降りようとしていた同じブレザーの学生たちに名を呼ばれ、彼は二つ返事をした。それからは黒鋼に視線を合わせることなく何事もなかったかのように、彼は黒鋼の横を通り抜け、同級生らしき学生たちについて降りていった。

咄嗟に呼びとめようと中途半端なポーズをとった黒鋼の目の前で、電車の扉が閉まる。



プシュ――――――――


扉の開閉音だけが車内に響く。

その唐突であまりによく分からない展開に、ニ、三度目を瞬かせた黒鋼の手からは、開いていた雑誌がスルリと落ちていったのだった。










mae tugi