しとしと雨が降り続く。
今日は暗い群青色の空。
ろうそくを立ててみても灯りの少ないお部屋の中はやっぱりどこかもの悲しい。
お城に呼ばれた黒鋼の帰りを待つ間、ファイはこの前仲良くなった近所に住む女の子から貰った絵巻物を読むことにした。
絵がついているから、まだ日本国の字が十分にわからないファイにも内容を理解することができる。
それは空からのお迎えがくるおはなし。
竹から生まれた姫は、成長すると月が美しく浮かぶたびに頬を涙でぬらす。
それはいずれ月へと帰らなくてはならないことが分かっているから。どんなにおじいさんやおばあさん、帝を好きになったって、かぐや姫にはどうすることも出来はしない。
ただ、運命を受け入れるだけ。
じゃあ、何のために姫はわざわざ地上で生まれたんだろう?
ファイは不思議に思った。
いっぱいいっぱい考えた。
だけど…どうしてもわからない。
月に帰るその時に、自分の大切な人にそっと不老長寿の薬を渡す気持ちはどんなものであったろう。
大切だからこそ、会えなくなってもずっと生きていてほしい。
ただ、生きていてほしいんだ。
オレはあの時、アシュラ王の命を奪うことはできなかった。
気が触れていてもいい眠っているだけでもいい、ただ、……生きていてほしかったんだ。
オレのせいでこれ以上、誰も不幸にしたくない。
ファイの不安は消えない。
このままファイがここにいて、黒鋼の気が狂わない保証などどこにもないのだから。
絵巻物を大事そうに抱えると、いつしか雨の止んでいることに気が付いた。
表に出て空を見上げると、覗く月は虹色の傘をかぶっている。
黄色い月から浮かび上がる赤や緑のひかりは近くの雲を巻きこんで色を燈している。
それを見ていたら、ファイの月と同じ色の瞳からは大粒のしずくがホロリとこぼれた。
果たして自分はいつまでこの平穏の中にいられるだろうか。壊さずにいられるだろうか。
何よりも、自分のせいでこの国を、何かに巻き込んでしまったりしないだろうか。
しかしファイが命を繋いでいける場所はここしかない。
ファイにはもう、還ることのできる月はない―――