今日も蒼い空がファイに向かって開いている。
長い長い雪の季節が続くファイの生まれ故郷も育ちの故郷も、こんな清々しい空気を吸える季節など数年に一回あるかないかと本当に少なかった。そうした環境にいたファイにとっては、日本国の春は、まるで時が止まってしまったかのような錯覚を覚える。
日本国の空は本当に色んな顔をファイに見せてくれた。
しゅわしゅわサイダー雲の空
甘酸っぱいみかん飴の空
まどろんだヨーグルト風味の空
そして今は、飴色が溶けて吸い込まれてしまいそうなほどのスカイブルー。
口に入れたらどんなにか爽快で甘いことだろう。
もし魔力が残っていたら最後はきっと、この空の味を確かめるために使っていたんじゃないだろうかとふと思う。
大切な人と二人で。
もしも力が僅かにでも残っていたのなら、最後の魔力は小さな幸せのために使ってみたかった。
ふんわり灯る、何気ない幸せのために。
ああ、それにしても本当に風の気持ちのよいこと。
ほけ―――――――
いや、だからといって気を抜きすぎですよ、ファイさん。
・・・目が点になってます。
あ、やってきました。
原っぱでほとんど大の字で寛ぐファイさんに気づく人物が。
ここからは少し声を潜めていきましょう。
「・・・・・おい」
!!
「あ、いたの、黒る―」
「いたの、じゃねえ。おい、いくら旅が終わったとはいえ、呆けすぎじゃねえのか」
「う――――ん、今まであんなに人と関わりながら、休憩なしにフルで働いたことなかったからねえ・・・」
「人と接するのに休憩がいるのか、てめーは」
ため息交じりに黒鋼が答える。
「なのかなぁ・・?接すること自体はすごく楽しくて嬉しくてわくわくするんだけどな―――。でもオレももう、若くないしさ〜」
「・・・その面で何じじい臭えこと言ってやがんだ」
「だよねぇ〜?見た目年齢、黒りゅんの方がずっと上なのにねえ〜」
「・・・・・ケンカ売ってやがんのか?(買うぞコラ)」
「あはは、気にしてたんだ〜?大丈夫だよぅ、オレ、射程範囲広いから〜」
「そうかそれなら・・・ってそーいう問題じゃねえ!」
反論しかけた黒鋼がファイの方をみやると、彼はからかいながらも全て見透かしているかのように、淡い蒼で微笑みかけていた。
「まあ、てめえがボケたって俺が面倒みてやっから」
ポロリと零れてしまった言葉。
おや?プロポーズですか、黒鋼さん。
(あ、しかしこれじゃああいつにじじいだって言ってるようなものじゃ・・・)
はっとした黒鋼がファイの方を窺ってみるとそこには、至極幸せそうな顔で笑っているファイがいた。
・・・・天然なのか、人の大きさゆえなのか・・黒鋼には判る道理はなかったが、次の瞬間にはしっかりとカウンターをくらう。
「ふふっよろしくね、黒ぽん」
飴菓子より甘いファイの笑顔。
先ほどのプロポーズに返し技をぴたりと決めた。
ふんわり微笑んだファイのKO勝ち。