ぷぅかぷぅか
「ほぇ〜〜〜〜」
ファイが目を輝かせ、見つめる先にあるものは。
茶ばしら
湯気だつ濃い鶯色のちょうど真ん中に浮かんているのは「ちゃばしら」というものだそうだ。
人に知られず内緒で飲み干すと、お願いを叶えてくれるのだと教えてもらった。
日本国に住むことになって、初めて呼ばれたお茶にぷかぷか浮かんでいるそれを見つけたファイは、隣で胡座をかいて茶をしばいていた黒鋼の着物の裾をちょちょいと引っ張ったのだった。
「縁起がいいじゃねえか。しかし次は誰にも見つからないうちに飲みきるんだぞ?」
そうしてお茶を入れた今、ファイは一人だ。
忍である黒鋼は密偵の仕事で出かけている。屋敷には誰もいない。
これなら誰にも知られずに「お願い」できる。
ファイは湯気に顔を近づけ、目を閉じて湯呑みに向かって念じてみる。
そうしてゆっくりゆっくりと茶を啜りながら飲んでいく。
ファイはただでさえ猫舌であるために一気に飲み干せないばかりか、先程から全く湯呑みの中味は減ってはいない。
あぢっ!
早く願い事が叶って欲しいばかりに焦って多めに茶をすすったために、熱いお茶が唇にたっぷりかかってしまった。
口の中も火傷しそうだ。
「はっはっはふっ」(わっわっあつっ)
それからのファイは冷静だった。
ふう〜ふう〜ずず〜〜〜
ふう〜ふう〜ずず〜〜〜
お茶との闘いを繰り広げる。
どれくらいの時間が経っただろう。
ようやく猫舌のファイも、最後の一口を残すのみとなった。
(ようし、やったぁ)
ついにこの時が来たとばかりに、蒼い目をうるうると輝かせ、今、まさに湯呑みに口付けようとしたその時だった――――
「おい、何してるんだ?」
びくぅ!!!
あまりにお茶との闘いに気を注いでいたファイは、後ろから覗きこむ黒く大きな影に気が付かなかった。
驚きのあまりふるふると全身の身の毛がよだち、その震えがあんまり大きかったせいで、大事な茶柱がなんと沈んでしまった!
「ああ〜〜〜〜!??」
「ん?なんだ?・・・・・!!あ、わりぃ」
「・・・!くろたん!」
落胆するファイが振り返ると、そこには黒鋼の申し訳なさそうな顔があった。
「茶柱また出てたのか。わりぃことしちまったな・・・」
「・・・ううん、いいんだ。だって願い事は叶ったんだもん〜」
「?」
「えへへ〜」
そうしてファイはふわりと笑った。白い着物を纏った金髪の天使は叶った願いに顔を綻ばせた。
《早く黒りーが帰ってきますように。》