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「………くっ…」
取られた腕が圧迫されギシリと骨が鳴る。苦痛に眉を寄せ、それでも屈することなく黒鋼を睨み付けてきた。
「……?」
そこで、黒鋼は金髪のおかしな様子に気が付く。多少力は入れているが、彼の顔色が悪すぎる。蒼白な額からは汗が流れ、肩は小刻みに震えている。
ほんの気持ちばかり力を弛めてみると震えは大きくなった。
違う。これは黒鋼の捻っている腕ではない。
むしろ、恐らくは逆の腕を庇っている。力なく垂れ下がったもう片腕に視線を落とした。
「…外れてやがんのか」
誰にともなく呟くと、黒鋼は片腕を解放し、もう片方の腕をとる。金髪は不意の動きにビクリと身を引く。しかし黒鋼はそんな彼の背に手を添えると固定して、片膝を突きぐっと力を入れた。
「……っ…」
痛みに息を飲む金髪。そっと手を離してやると、彼は苦しげに荒い息のリズムに合わせて肩を上下させた。
やがて入った肩に手を当てると、ゆっくり身体を起こして黒鋼の方を振り返った。
未だに治まらない呼吸のまま、眼には警戒の色を浮かべているのが見てとれる。
初めて正面から向かい合った清んだ蒼い瞳は空を思わせた。珍しい色に思わず吸い込まれ、黒鋼は言葉を失う。
いっぽう彼はといえば、息を整えながら、こちらの真意を窺っているようだ。
――無理もない。
彼はつい先程、あんな目に遭わされたばかりなのだから。
仕方ねえ、とそのまま黒鋼は腰をあげる。彼はそんな黒鋼の動きを眼で追っていた。
「とにかく立て」
黒鋼は今しがた自分の捻りあげていた、負傷していない方の腕を掴んで引き揚げる。彼に反応はなく、されるがままに腰を上げた。
そのまま二人、淀んだ出逢いの場所を後にした。
―――この出逢いは必然
何物にも変えられない
払ったのは、自由という名の対価だったのかもしれない。