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あれから、辺りは暫く騒然としていた。
荒々しい囚人たちの怒声が右から左へ遠く、慌ただしく駆けて行く。
だが、それを歯牙にかける黒鋼であるはずもない。
砂利のばら蒔かれたように埃だらけの房の路をゆったりと歩く。
つまらなかった。
刺激もない、何もない、この檻の中での生活が。
何に心動かされることもない。ここには一切の草木は育てられることはなく、あるのは乾いた砂ばかり。
此所の囚人たちはみな、地面に穴を掘らされる。汗と泥にまみれ、深く土を掘り起こす。
それがある程度の深度と直径に達した次には、今度はそれを埋める作業が始まる。
黒鋼はかつて一度たりとも、この監獄に入れられた囚人が生きて出たという話を聞いたことがなかった。
それは、この報われない使役が死ぬまで続くことを意味する。
彼らに強いられるのは、ただ無為にそこに『在る』ことのみ。灼熱の地で無意味な労働を繰り返す、ただただ過酷なだけの日々。誰の何の役にも立たず、産み出す悦びすらも与えられない。
それが彼らに課せられた罰だった。
此処は完全に裟婆とは隔絶され、世界が閉じられている。生きる糧も希望も取り上げられた生活――腐るには、十分だ。
いつもの通り、退屈で不愉快ばかりが先立つ男どもの喧騒が聞こえたので、うんざりして進路を変えた。
穴堀道具を置く静かな倉庫を見つけ、奥に進む。
そして誰もいないようだと判断したその時だ。
消え入りそうな 異国の歌が聴こえた…
I've been lost... before....
.. a long long time ago...
Why have you gone far.. away....
I wish... I were.... with you....
if...if only.....
... and.. I...
曲がり角の向こうから聴こえてくる歌は、蚊の鳴くほどに細く。空耳かとも耳を疑う。
声は途切れ途切れで掠れていた。
しかし何故か心奪われ足を止める。
声にはこの監獄に剰りにもそぐわない、馴染みのない透明感があった。
ここにあっても、ここに染まってはいない色。
それでも黒鋼は、それに一握の人間臭さを嗅ぎわける。それを暴いてやろうと思ったわけではないが、単に興味を惹かれた。
呼び寄せられるようにそちらへと足を向ける。