Crimson sky | ナノ



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「死んだ…、だと?」


黒鋼がそれを聞かされたのは、出頭から帰って直ぐの事だった。足止めを喰らい、漸く囚人護送用の車で再び監獄へ送られた頃には、既に陽は落ちきっていた。それまで全く自由の利かなかった黒鋼は到着早々監守にそれを告げられ、掠めた胸騒ぎが的中した事実に瞠目する。


「ああ、躯は既に収容された。屍骸で使える主要な臓器の殆どは潰れていたらしいからな。輸送なく廃棄、だそうだ。」


この監獄には裏のシステムがある。老いや病に因るならばその遺体は即廃棄。但し、例外がある。死んだばかりの身体的に健康な囚人の躯は、臓器売買に適応される例があった。その場合は保冷車で港の在る町まで直ちに運送される。臓器を摘出し海外に輸送するのだ。取引は高額だ。そしてその利は、世間に公表されることは無かった。殆どの囚人はそれを知る事は無かったが、監守と古株である黒鋼はそのシステムを知っていた。


「あいつはどうした?」

黒鋼が尋ねると、監守は言いづらいものを発するように、少し俯く。


「・・・あいつが空汰を殺した、と言う事になっている。」

「…?!!」

「屍骸が見つけられた時、奴も一緒にいたそうだ。監守に楯突いた囚人の殆どはその場で射殺刑。歯向かった者で運良く銃撃を免れた者も、捕縛されて集められた後、日が暮れる前に射殺された。これで囚人の大多数は一掃されたって訳だな。今此処に残っているのは、一部を除けば凡そ年寄りや、病で動けない者ばかりだ」
「それで?」
「その中で監守を攻撃した訳でもなく、同じ囚人を殺したあいつの扱いは別だ。全くの狂人扱い。危険だと言う事で、見つけて捕縛した後はそのまま例の牢に放り込まれた。ただ他の監守の話じゃ拘束時、あいつにはまるで精気がなかったらしい」

「ちっ」

忌々しげに舌を打つ。これでは何が起こったのか、想像の域を出ない。

…否。
空汰が殺され、ユゥイが近くに居たと為れば。取引を密告した男の狙いが、黒鋼の足止めだったとすれば。黒鋼が尋問を受けている間に何が起きたかということは、自ずと答えが出る。

「で、その一部ってのは?」

「ああ、信じられない事に、騒ぎに加担しなかった輩も居たらしい。特に血気盛んな連中なのに、奇妙なことだ。これは俺の想像だが、もしかすると…」

黒鋼の様子を伺うように発した監守の言葉を前に、紅い眼光が一層鋭くなる。
間違いない。黒鋼の不在に、嬉々として二人に復讐を仕掛けた囚人ども。
奴らは空汰を巻き込んでユゥイを壊したのだ。ユゥイがどんな目にあわされたか、おそらく監守の想像通りだろう。

捕縛されて早々例の牢に幽閉されたのは、当分は連中の餌食にならずに済むことを考えれば、多少なりとも救いのあることかもしれなかった。黒鋼が何時また召喚されるか解らない、今であっては。

はたまた黒鋼が返答するまでの間、互いに接触して連携を持てないよう図られている可能性もある。あの、狡猾そうな所長によって。

ユゥイを牢に閉じ込めている間に、奴は答えを促してくるだろう。恐らくあの老人の性格を考えれば黒鋼の返答無くして、彼の解放はない。精神を蝕む、あの闇の牢から。


状況は、最悪だった。


 

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