Crimson sky | ナノ



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意識のある侭余りに多くの欲をその身に受け、精液と乾いた金砂にまみれた重い躯が這う。

そんな彼の向かうは犯される間手の届く事なく、今は、体温を宿す事のない嘗ての友。

囚人らが満足して解放され、僅かにでも動ける様になる頃には、陽は傾きかけていた。一見してユゥイに大きな外傷は付けられてはいなかった。それはこの行為がこれから再三に渡り行われるであろう陵辱者らの意図が見て取れる。だが長時間の陵辱に、ユゥイの身体にもはや体力は残されてはいなかった。

しかし、力を振り絞り、虐殺された躯へと、縋るように向かっていく。




漸く辿り着いたそれは、砂漠という高温地帯のせいで温い感触を留めている。だが、芯には生気が無いことは余りに如実で。

ゆっくりと、震える指で、生者には有得ない程に固くなり始めた頬に触れる。浮べられた表情は、苦悶に満ちてはいるが、何処か誇らしげでも在り・・・それを意味する彼の最期を見届けたユゥイは、見開かれたままの目蓋を、そっと下ろしてやった。


その時、固く握り締める彼の掌から、シルバーの光がこぼれることに気が付く。
常から襟元を肌蹴たまま囚人服を着用していた男だったが、今の今まで気づくことがなかった。それは、鎖がかなりの長さで吊るされていた事に起因するのだろう。


指の隙間から取り出し中を砂まみれの指で開ける。楕円を描いたシンプルな造りのロケットペンダント。開いた其処には黒髪の美しい女が写っていた。豊かな睫毛の下の黒い瞳は無表情に、此方をじっと見据えてくる。

ユゥイには解った。彼女だ。彼女がきっと彼にとっての「後悔しない理由」。






ごめん…なさい…





謝罪は、掠れ切って声には生らず、誰の耳に届く事も無く。

謝っても、取り返しのつかない事も解っている。けれど。

それでも。



金糸に血が張り付く。構わずに黒髪頭をかかえあげて抱き寄せる。だらりと腕は垂れ、力を無くし二度と重力に逆らうことのなくなった躯。

涙に腫れた目蓋を落とし、薄い胸にそっと包みこむ。








それから−−−

乱れた服を辛うじて纏った男が血溜まりの中、虚ろな碧眼で屍骸を抱き締めるという凄惨な現場を監守が見つけ、その身が再び拘束を受けるまで。


その影は身動き一つ、する事はなかった。





 

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