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その時けたたましく四度、ドアが叩かれ、監守服の男が一人、入ってくる。
「なんだね今取り込み中だ。」
「監獄長、……」
入ってきた男は上官に何事かを小さく耳打ちする。それを聞いて老人は不機嫌に顔を顰める。
「ふん、愚か者共が。いい。歯向かう囚人は射殺しろ」
無感情にそう令する。
が、そこで黒鋼の顔を見遣り、皺の深く刻まれた口角をやや上げてこう付け加えた。
「…ただし、金髪の新顔だけは殺すな」
◆
「空、汰・・・?」
微動だにしなくなった影。掴まれた腕を目一杯彼へと伸ばすが、敢え無くそれも、直ぐ引き戻される。
金髪の男は四肢を拘束され身動きすら取れない。出来る事と言えば、冥府へ旅立ったばかりの男の名を喉から絞り出す事だけ。
「空汰ッ!空汰…ッ!」
何度声を届けようとしても、虚しくそれも広大な砂を焼く大地を取り巻く空気に嘲われる。
力の限り叫び続ける細い身体を、数人がかりに力ずくで抑えつけられる。もがくユゥイの衣を剥ぎ、肌を先刻と変わらず哂いながら辿り、下肢まで脱がせ、大きく脚を開かせた。
「や…、嫌だッ…!駄目だ、死ぬな!空汰…ッ!」
だがユゥイは諦める事無く叫号する。如何にその身が扱われようと、そのアイスブルーには唯一つの姿しか、映してはいない。
邪魔するものを振り払い、血だまりの中に斃れる友に近づこうと、力の限り暴れる。
だが非情な現実は、その身に白刃を突き立てる。
「・・・ッ!!!」
剥き出しの雄を無理に挿入され、その衝撃にびくびくと体が反射し痙攣に慄く。だが犯され始めても、それに構わず震える手を、空汰に向かって伸ばそうとする。
そんなユゥイに覆いかぶさり腰を動かしていた男は、獲物の白い首筋を喰らうように執拗に舐めていたが、やがて顔を上げると満悦の表情を浮べ、耳元で、低く、吐息だけで囁いた。
「 お前が 殺した 」
途端、暴れていた身体は動きを止め、その瞳孔はこれ以上ない程に見開かれた。
男に組み敷かれ、身体を貫かれたまま、大きく全身を痙攣に震わせる。
ひぅと吸い込んだまま、呼吸が、つまる。
「‥オ、レが…、」
「そうだ。お前さえいなければ、奴は死なずに済んだのにな」
雄の快感を孕んだ声で囁くように。
先と変わらぬ調子でゆっくりと、まるで止めを刺すかのように。
悪魔の言葉を金糸から覗く耳朶へと吹き込む。
その虚言は、ユゥイの混濁した意識には事実として認識される。次第に筋に張っていた力が抜け落ち、ゆっくりと金髪が項垂れる。瞳からは光が抜け堕ちていく。
… オレの、せいだ。
もうその瞳には、僅かな光すらも残されてはいない。絶望に染まった双眸は、金の睫毛の落す翳に隠されながらも薄らと開いていた。
けれど、もう、抵抗は、無い。
それを合図とするように。一切の抵抗を失った痩身に、再び複数の手が伸びる。
その凌辱は長時間に渡った。
熱砂の上で、囚人どもは好き勝手薄い身体を翻弄し、服を乱し、己の欲望を精気の失った身体に突き立てた。容赦なく穿たれる雄にも、ユゥイの意識は何の反応も示すことは無い。時折神経の反射にびくびくと慄く事はあっても。
力なくただ、揺すられるだけ。
焦点の定まらぬ蒼い瞳は虚ろで、身体の感覚すらも無く。
快楽に餓えた囚人たちは金髪の男の残ったなけなしの自尊心をも粉砕する様に、続け様にさんざん好きにその身体を貪り抱いた。
鬱屈した精神、その反吐の出そうな程に屈折し切った種の欲望が、
ただ、満たされるまで。