Crimson sky | ナノ



2

2/43




「……くぅ…、ぁっ」

 複数の人間の荒い息遣いの中で、一際噛み殺すような声が聞こえる。鉄とコンクリートで閉ざされた空間は黴の匂いが立ち込めていた。

声の主は、今頃冷たい壁に押し付けられているのだろう。屈辱にまみれた呻きが耳に届く。


男たちの罵声も薄ら笑いも黒鋼にとっては聞き慣れた雑音でしかない。…餓えたハイエナのように群がる息遣い。

うんざりだった。

此処にあっては日常茶飯事のこの状況に。それを悲観しても仕方がない。まともな神経など、とうの昔に事切れた。それでもいい加減、反吐がでる。


『明日はお仲間がくるぜ』


昨日、馴染みの監守がそう言っていたのを思い出した。

そして朝一発目に聞こえてきたのがこの現状だ。到着早々これでは、そいつの先行きも相当悲運に見舞われるものになるだろう。どんな奴かまでは言及しなかったが、性欲に餓えたここの連中の欲求の的になりえる何かを持っていたということだろう。そう無感動に考える。


新しく入った囚人には、『儀式』が行われる。

男ばかりが収容されるこの監獄においては、新入りが見るからに視覚的にむさ苦しく「対象」になり得ない男であれば、それは施行されずに終る。

だが、少しでもつけいられる容姿を持つ者であれば。

入獄した早々、奴らに囲まれることになる。

奴らの言う「洗礼」とやらが始まるのだ。あとは、女の居ないこの檻の中に放り込まれた生贄へと成り果てる。

生贄は哀れにも、ここを自分たちが仕切っていると勘違いしている徒朗どもに犯され、これ以上ない恥辱を味わわされる。そして一度餌食となった新参者は、ずるずる行為を繰り返されることが常だった。そのまま奴らの欲の捌け口として扱われる。

次の標的が現れるまで逃げる場所などない。

たとえ、この獄中に監守が眼を、いや、奴らが光らせていても、全く意味を為さないことを黒鋼は知っている。監守が囚人の事情に構う訳がないからだ。ここで行われる全ての横行は、監視の気分次第で如何様にも片がつく。全ては陰の取引次第。どう巧く立ち回るかで、ここでの生活は決まる。

目を覆うような場景が、見て見ぬ振りが、悠然と行われている無法地帯。

それがこの『孤陸の監獄』。


そして、黒鋼がこの暗黙の掟を熟知しているのには理由があった。何せ、子供の時からここにいるのだ。ここにいる連中の年齢層は幅広いが、今暴挙を働くのは、年若く最近投獄された者が多い。奴らよりはここのルールを知っていることは間違いないだろう。

しかし、そいつらの挙動一つ一つを気にしていては、唯でさえ不味い犬の餌のような飯が余計に不味くなる。締めるにも面倒は御免だ。耳さえ塞いでいればさしあたり問題はない。今日もいつもの常套手段を講じることにした。

ボロい簡素な木製の椅子に身を落とすと、黒鋼は目を閉じた。



prevnext





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -