Crimson sky | ナノ



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すまん黒鋼、


お前の大事な奴、守りきれんと -----






脳内に、いつもの癖のある喋り口調が掠めた。―――これは幻聴か?嫌な胸騒ぎがする。眉間の皺を増やし、黒鋼は窓に向かって紅眼を凝らす。

「聞いているのかね、#1059。」
「…。」

声を幾度か掛けられ、漸く視線を元に戻す。そこには変わらず此方の答えを促す老人の姿があった。

「何の事だ。」
「金髪の男だよ。君らの仲間では一番の新顔の。彼が入ってから数月経つが、この監獄に放り込まれるような下劣な極悪人は少ないからね。私も彼を入獄時見たが、人間見かけに惑わされるな、とはよく言ったものだ。…君はまんまとあの容貌に惑わされたようだがね?」
「…関係ねえ」
「関係ない?それは無いだろう。君は、彼の為に特殊なルートを使って薬を調達しているのだろう?」
「知らねえな」

答える気の無い黒鋼に向かって、前のめりになった老人は少々早口に捲くし立てる。

「しらを切ったって無駄だよ。ねたは上がっている。誰だったかな…腕に包帯を巻いていたな。君にやられた男だよ。」

この監獄に於いては病人に対して施しを付与する道理はない。然し徒でさえ不衛生な環境だ。放っておけば傷口から蛆が涌くことは目に見えている。それは監守にとっても好ましい事ではない。噂によれば、かの騒ぎで怪我を負った囚人たちには、最低限の消毒液と包帯のみが支給されたらしい。

「その男は直訴してきたよ。君がとんでもない秘密を隠している、とね」

そう言って再び勝ち誇った口調へと戻す。詰まる所、秘密がそいつに知られ、密告されたという事だ。黒鋼にとってはどう成っても構わなかった為、特に隠し立てせずに取引していたことが、今更仇となったらしい。

黒鋼は深く溜息を吐いた。これ以上は、聞く気にもなれない。此方の動向の全ては、既に敵方に筒抜けらしい。眉間に皺を増やし、気は進まないが、話題を先程の話へと転向させる。

「俺が仕事を受ければ、そいつも出所は一緒か」
「逸ってはいけない。彼には此処で君の働きの吉報を待って貰う。我々と共にね。…だがまあそうだね、君の働き次第によっては、いずれは、それも視野に入れることにしよう。
だがそれまでは、国に見つからぬように君の当面の代わりをして貰おうか。
勿論今までとは取引の相手を替えて、だがね。」

にんまりと笑む老人とは気分を反比例させて、益々眉間に皺を掘り込む。あくまで可能性を示唆することで、此方の動きに見えない圧力を加えてきやがった。大様に見せかけて、抜かりの無いことだ。


つまりは、使い勝手のいい人質と云う訳か。




「暫く考える。時間を寄越せ」

そう言われ如何にも理解出来ないという風に、手を掲げて肩を竦める。だがこの人間兵器とも成り得る程の逸材を意のままに動かす事に大いに魅力を感じている老人には、その男に対して、懐に余裕を見せる必要があった。


「いいだろう。よく、考えたまえ。」


そうは言っても、確信した瞳は老猾な笑みを浮べつつ、こう告げていた。


君に選択肢など、無いのだから。と。


  
 

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