Crimson sky | ナノ



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「うあああ!」


上がった声に、ユゥイの視線は振り返る。空汰が持っていた角材は奪われ他の囚人によって真っ二つに折られていた。今や鋭利な凶器と化したそれが、地に押さえつけられた空汰の片腿を貫いている。じわり、と溢れ出した鮮血は直にどくどくと流れる勢いを増し、乾いた砂を巻き込んで不気味に波打ち広がりゆく。


「あ・・・」


蒼に映る。二人がかりで地に押さえつけられた囚人に突き立てられた冷たい棒切れ。痛みにのたうつ動きさえも封じられた男の悲鳴が、耳に届く。

この苛酷な地で、いや、潤いのなかったこれ迄の人生に於いて、若しかすると確かに「友」と呼べたのかもしれない、…唯一の男。その男が無惨に無感情に、壊されていく。

目を見開いたまま、動きを固めてしまったユゥイの様子ににやりと満足を得た男が、再び衣服に手を掛け、今度は集まった囚人ども皆に見えるように、白い肩から胸に架けて大きく肌蹴させた。上がる野次と下卑た歓声。だが、無情に流れゆく鮮血に全視界を奪われたユゥイは、自らに降り掛かるその行為には何の反応も示さない。


「…やれ。」


ユゥイの肌に顔を埋めながら、感情なく男は令する。抜かれる木材。全身を震わせ、痛みに耐える空汰。左右から大柄の囚人たちに固定される。そして再び加速したそれは、今度は左の下腹部に鈍い音を立てて吸い込まれる。

「ぐ、・・あ…ッ!!」

衝撃に目を剥き、半端に開かれた口から漏れていくくぐもった呻き声。両側から力ずくで拘束を受けている為、自ら傷口に手を添えることもかなわない。

貫かれ、流血と共に震える体躯。痙攣と共に、どんどん血の気を失い土気を帯びる顔色。唇の端からも深紅が溢れ出る。


「そ、ら・・・… 空汰ッ・・・!」


喉から絞り出すように、悲鳴にも似た声が解き放たれる。

けれど、殆ど初めてその唇から紡がれた名は、乾いた空気に虚しく掬われてゆくばかりで――

今までの無関心が嘘のように暴れだし、本気の抵抗を始める。だが途端に、取り囲む圧倒的な人数の男たちに押さえにかかられる。ユゥイは顔を歪め、必死の形相で友の名を連呼する。

けれど。




「あほう、自分の心配…せんかい」







空汰は、血の気の失せ始めた口の端で笑んで、そんなユゥイの瞳を優しく見つめていた。しっとりと色の滲む、琥珀混じりの清んだ光。ユゥイだけを、真っ直ぐに見詰めてくる。ひくつく呼吸の中、穏やかに向けられる笑顔。---そんな風に他人から無条件に向けられる慈愛なんて、今まで知ることがなかった。


視界が闇色に塗りたくられる。ちかちかとして、前後左右すらもが判らなく程視界が揺れる。

穏やかな彼の表情ゆえに「どうして」と。ユゥイの胸は益々絶望に満ちてゆく。











どうして、オレのせいで傷つけられているのというのに、どうしてそんなにも綺麗に笑えるのだろう。
どうして、君は、そんなものをオレに向けてくれるのだろう。


また、自分に関わったせいで、それだけのせいで、その者が傷つき、壊されるのか




ただ、自分がいた





−−−そればっかりに。









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