Crimson sky | ナノ



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『なあ、ええんか?金髪のにーちゃん放っておいて。何や不穏な動きしとる連中がいてるで』

『ああ?俺には関係ねえ』

『ふぅん?ほんなら。わいが頂いても、ええっちゅうこっちゃな―――』



―…





あの男ならばやりかねないと。それに焦燥を感じた。たったそれだけのことで。
今思えば、あの男にうまく乗せられてしまったものだ。

促され、関わってしまった見返りがこれだ。面倒臭え、と思った。しかし乗せられてしまったのは己の責。

それにしても、何故あの奇妙な話し口調の男は金髪の新人に自分を近づけさせようとするのか。やはり理由はわからないがそれでも現に、こうして自分は新人に手を貸してしまった結果此処にいる。
いったん関わってしまった以上、半端な関わり方は好まない。
黒鋼にとって、他人の為に腰を上げるということは決して軽いことではなかった。



ふう、と冷たい空気に大きく息を吐き出す。

緩慢な動きで懐を探り、今朝手に入れた最後の一本を取り出す。口に咥えマッチを擦った。真っ暗闇の中に赤くほのめく小さな灯。シガレットに着火するとすぐに木片は煙を立てて白く燻ってしまった。
他にすることもないので、着火したそれを片手に持ち、灰に埋れて耀きの衰えてゆくさまをじっと見つめる。


ここは本来ならば、微かな光すらも届くことのない完全なる暗闇。特別にあつらえられた独房だ。
中には外気の紛れ込む音すらも聴こえない。

手元を照らす微かな光もこの一本が堕ちれば消え、数刻先には完全な暗闇に包まれてしまうことだろう。

此処へ入れられるのは久しぶりのことだった。
今までは長らく、動く理由もなかったのだ。あの金髪の男が現れるまでは。

もう一度時間をかけて煙を呑む。光を放つ赤。それが堕ちていない内に眼を閉じ、零れゆく灰の言葉を聴いていた。



…やはり此処の空気は、あまり好きではない。




















――なんて奴だ!餓鬼のくせに!!

――貴様凶器もないのにどうやって殺した?!!



赤い鮮血。力を失った血色の無い手の甲。苦悶に歪んだ表情。

自分を激しくなじる声に、ただ黙ってその場面を眺めていた。此処に来て最も近くに、そして長い間共にいた男に袋が被せられ、連れられていく。

その頃、房は一室にニ人一組で収容されていた。互いに見張りをさせる為に。脱獄の謀に対する責任は連帯性であり、むしろ脱獄囚ではないペアの人間に対してより厳しい罰が与えられた。――あの事件が起こるまでは。
たった十と三つほどの子供が獄中で部屋のバディを殺してしまう事態に彼らが怖れを抱いた為に、その頃を境に、その風潮が広まらないよう、徐々に個室へと移行していった。

全てを紅い瞳に収めながらも屍体を前に、いくら問われようがその少年は何も語らなかった。その詳細に口を割らなかったことで手酷く彼はリンチを受け一ヶ月間息も詰まるような暗闇へと閉じ込められた。

簡略的な検死による死因はおそらく毒殺。
その入手経路を探ろうと看守等は躍起になったが、いくら殴打されようが紅い眼の少年はそれについては一切語ることはなかった。



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