1
13/43
残された二人は、とにかく暗闇の中を房を目指して歩き始める。踏みしめられた砂音だけが無音の中、聴覚に響く。
ここでの罰がどんなものであるか知る由もない。だがユゥイは、自身のいさかいに他人を巻き込んでしまったことによる焦燥に駆られていた。
しかし、去り際のあの言伝て。―――実行してみる価値はあると思った。
決行するなら明朝だ。誰の目にも触れぬ内に及ばなければならない。面倒な連中も相当な怪我を負ったあの様子だから、当分は動けまい。
「・・・どうした?」
「…………」
振り返り声を掛けてきた空汰にも、さしあたって報せぬが良いと判断し、そのまま脚を暗い道へと向かわせた。
「#2147。ここがあんさんの房や」
それから点呼の開始時間ギリギリに房へと到着した二人は、何食わぬ顔で監守の目を盗んで列へ加わった。
特に取り沙汰されなかったのはこの監獄独特の風潮だ。余りにも南の僻地にあるために、普段の監守の束縛は強くない。気性の荒い凶悪な犯罪人ばかりが集められている為でもあり、職務怠慢によるものでもあった。本来ならば殺されて然るべき囚人ばかりを扱っているのだから、この監獄のある国の基準ではその拘束にも人力をかける掛けるべきでない。その事が暗黙の内に意識の根底にある。
結果として、潤いのないこの地において生活の為に雇われた者たちは、その任に一向気概が無かった。
事務的な最低限の仕事しか関与しない者もいれば、使える囚人を見つけては少しの休憩と引き換えに日常の面倒な雑務を請け負わせる者もいたりと様々だった。
整列を終え、監守に代わりユゥイを空きの牢へと誘導したのは空汰だった。人当たりの良い彼もまた、監守の小遣いを請け負う囚人の一人。
簡単に内部を説明し、背を向けて去ろうとした時だ。
「あの人は…」
ずっと沈黙を守っていたユゥイの口から、小さく疑問が漏れる。
「ん?黒鋼のことか。そやな、奴らのやり方は決まりきっとる。気になるんか」
くるりと首だけ振り返り、微かに意味深な表情を浮かべた空汰に、ユゥイは顔を顰める。
「ま、とにかくや。やられた奴らは今ごろ連絡受けた連中が片しとるやろ。
・・・ただ、今回ちとやりすぎたな。気休めなんか意味あらへんから言うとくわ。あいつはしばらく帰ってこれん」
視線を流し、うっすら黴の生えた天井を眺めながら言う。
考え込む風を見せていたユゥイは顔を上げた。
「訊きたいことがあるんだ」