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それからは死人こそ無きものの、さながら殺戮ショーを観ている様だった。
飛び掛かってゆく者は返り討ちにされ、次々に倒れていく。ある者の渾身の一撃も逆にカウンターを身に受け、腹部の痛みに嗚咽を洩らす。空汰を拘束していた者も手を放し挑んでいくが、厭に鈍い音と共に地に伏し拳を受けた部分を腕で押さえ込み情けない声を上げながらのたうち回っている。骨は折れているだろう。容赦なく留めに踵を落とすと男が吐血したのが分かった。
鬼神。
過酷なこの地の闇に、彼の姿はそう映った。
半ば人智を超えたその圧倒的強さに、立っているものは喉を鳴らす。新人も繰り広げられる場景に目を見開いていた。
そこにせめて一矢報いようしたのだろう、身近にいた金髪に掴みかかってきた囚人。それに反応した金髪は、殴りかかろうと振り回された腕を潜り、軽い身のこなしで男の側頭部に鋭い蹴りを入れた。
鮮やかなその動きに空汰がピューと口笛を鳴らす、その時――――
「おい、そこで何をしている」
無人の筈の背後からの声に、目を見開いた空汰は思わず振り返った。
ライトがゆらゆらと地に伏した囚人たちの上を巡回する。連中は呻き声を上げながらその光を身に受けた。
今や立っている者は三人のみ。
やがて囚人たちの臥す中心に立つ黒鋼の横顔へと焦点が合わせられる。
「貴様か、#1059」
暗闇の中、監守の事務的な声が響く。
当の黒鋼は、表情一つ動かさずに前を見据えている。
現れた男は何やら機械を取りだし、口を動かし始めた。
おそらく無線機で連絡をつけているのだろう。やがてそれを仕舞うと黒鋼に向かって言った。
「…来い。#1059」
淡々と任務を遂行する声に呼ばれ、黒鋼は無言で足を踏み出す。
そして看守への道筋に立っていたユゥイの辺りまで来ると、横切りながら耳元で低く、何事かを囁いた。
「――――――――――」
それを見て、黒鋼の動きに警戒した監守は、突然語調を荒げる。
「…何をしている!貴様らも共犯か!?」
白い光は忙しなく動き、今度は新人と空汰の身体の上を這い回った。
ちかちかとライトが顔面を照射し、眩しさに微かに眉が寄せられる。
「違う。俺だけだ」
黒鋼の静かな声に、監守は何とか落ち着きを取り戻す。
「………そっちは今日入ってきた新人だな。まあいい、今回だけは多目に見てやる。
これに懲りて以後、問題を起こすんじゃないぞ」
顎でしゃくり黒鋼の追従を促す。
「お前たちは直ちに自分の房へ帰れ。すぐに点呼の時間だ」
再び歩を進める黒鋼はその後方を追い、二つの影は小明を頼りに闇へと消え去った。