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2012/08/24 04:38


 


「このポンコツが」


図体のでかい黒い男は小さく毒吐き、その車を一蹴した。

本来その男の所有物ではないその車。蹴られた衝撃で最期の力を振り絞らんとようやくきゅる、きゅる、と不格好な鳴き声とともに覚醒をした。が、もう切れそうなエンジン音がさも不機嫌そうに文句を吹かしてくる。

もうそろそろ、止まるんじゃないだろうか。

「空汰め、こんなもん押しつけやがって」

仕方なく、そのまま車へと乗りこむ。クーラーなんて、そんな気の利いたもんは当然ひどくぬるい送風を寄越すだけだ。

「あっちぃな、くそ」



目的地は、ない。


強いて言えば、自分探しの旅。最近両親を亡くし、なんだかむなしくなってバイトに打ち込む黒鋼の我武者羅な姿を見かねた同級生が、車貸してやるから気晴らししてこいとこのポンコツを押し付けたことがきっかけだ。

ヒグラシがひよひよ啼いている。蝉の声は暑さと苛立ちを助長させるものでしかない。周囲に車はない。人気すらない。こんな辺鄙な場所では給油所もないだろう。止まれば、致命的だ。知人の車で牽引されるなんて、まっぴら御免だ、と滝のように汗を流しながらもなかなか上がらないスピードのメーターにぐうと唸る。さっきから30キロ以上出ていない。

がこん、と詰まったような音で、ついに車が黒鋼の不服に反論したのだろう。とうとう停車してしまったらしい。どうすんだよこれ。まさか、本当にJAFの出番か?!と焦って携帯に手を伸ばそうとしたその時だった。


「ね、乗せてくんない?」


運転席の窓からこちらに向かって、見珍しい金色の髪と蒼い瞳が顔をのぞかせていた。


 





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