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2012/07/08 06:37


 早速木の拵えの自分のベッドに捕獲したそれを放り投げる。その際「わぁ〜!?」とやや間抜けな声が聞こえた気がしたが、それも気にしねえ。巣に持ち帰る肉食獣みてえだなんて考えながら、それでも単なる獲物だと思っていたらきっと思わぬ反撃に遭う。こいつは兎とかそんな無抵抗で非力な小動物などじゃなく、今まで遭遇したことのない得体の知れない魔獣の類だ。そんな気がしている。俺も魔術師も長身の部類に入るから使用する寝台も十分な広さを確保しているとはいえないが、それも気にしないことにする。少々身じろいだ奴を追って片足を掛ける。
「黒りん、目が据わってるよぅ」
「うっせえ、この顔はもともとだ」
「やっぱり、するの〜?」
「文句あるか」

 開き直った返答に魔術師は戸惑いを隠せないでいるようだったが、問答無用で腕を引っつかんで強引に寝そべらせる。白いベッドに磔にして、首筋をべろりと舐めたら「ひゃぁうぅ」と粟立ったような声がした。身を包む衣類に手を掛け、腹の辺りを引っぺがしてみたら鳥肌を立てているのを見て取った。薄い肉付きの腹筋になるべくそっとガサツな手を這わせる。じんわりと触れるとそれが反射でびくびくっと小刻みに波打った。敏感な動きが面白い。そうして不埒な俺の手に反射的に抵抗を返してくる。他人にそうそう触れたりはさせない部分だろう。幾度となく身体を重ねるようになって分かったことだが、必ずと言っていい程こいつは腹を隠すようにしてうつ伏せになって眠る。弱点を隠すように、自身の弱さを見せまいと守るみてえに。ひょうひょうとしてこちら側の警戒を解かんとしておきながら、それに引き換え奴自身の行動はその実手負いの獣。
 ゆっくりとその肉の手触りと堪能する。薄いがしっかりとした筋肉。俺は鋼のように強靭な筋肉を持っていると自負しているがこいつのそれは少々種類が違う気がするのだ。強さを求めて相手を打ち負かすために鍛錬し、欲して手に入れたものとはどこか違う。表現に困るがなんというか色がない。透明でしなやか。美しい。おそらくは長らく『生きる』ことを追った結果、身についたものだ。生きる気のねえ本人は否定するだろうが、その肉体が訴えてくるのだ。勝ちなど要らない。ただ生きたかった、と。だからこいつ自身に反してこの身体は俺の気に入りで、飽きもせずに抱く理由だ。
だがこれは吸い付くようでいて拒絶する。苦境に屈しないと抗い続けることで身についた、それは。熱を帯びず何所か冷んやりとしたそれは。
 拒む、のだ。
 人の体温を。

 だから生意気なそれを溶かすようにゆっくりと丹念に手を這わせる。緊張に波打っていた冷たい身体は徐々にではあるが着実に熱を帯び、吐息が追い詰められるように甘くなっていくのが分かる。こいつが直接的な性器に対する刺激よりも、こうしたいわゆる生き物の『弱点』といった部分に対する愛撫に感じることが分かってきたのはここ最近の話だ。敵に弱みを見せることに本能的な恐怖を感じている。こいつは無意識だろうが、本能は種の存続の為に、性的な感覚を死の危険に瀕してようやく沸きあがらせるのだ。中性的なこいつはおそらく子孫を残す即物的な性行為よりも、己の生命を危ぶませるような行為に対して官能が強いのだと分析している。そこまでしないと性的快感を感じないこいつは、おそらく自身の欲に興味がない。だからその欲を見出して育てて異世界の人間の身体を俺の手が支配することに愉悦を感じるのだ。こいつの思惑から始まったこの関係も、悪くないと思える理由の二つ目だ。そんな自分の乱れようは、恐らくこいつにとってみれば計算外の何物でもない。そうしてとろとろに溶けてしまって訳が分からなくなるころ、奴が本性を現し始める。
そうすりゃもう、俺優位の時間の始まりだ。
 腹への刺激で「ぁ、ぁ、んぁ、」と控えめに声を漏らしていたこいつは、一際大きく短い嬌声を上げたのを切欠に別の場所への愛撫を開始する。横腹へ手を這わせ内股に吸い付く。薄すぎる身体は呆気なく俺の腕に収まり、相手を叩きのめすために強さを手に入れた俺の手に蹂躙される。ふと声が大人しくなっていることに気がつき上に視線を向けると爪を噛んで快感からくる波をしのいでいる。声を出すまいとしているようだ。じゃあ尚のこと、声を出させてやろうじゃねぇか。

 下半身への愛撫を止め、口元にある手を掴むと「あぅう・・・」と朦朧とし始めたそいつが声を漏らす。くちゅくちゅとわざと音を鳴らしながら耳への愛撫を開始する。勿論その両の掌を掴みながら。「あ、んあ、あ・・・」とぞわりと粟立たせて愛撫を受けるそいつの最初の抵抗はもう存在しない。舌がゆっくりと顔を伝いくちびるの横をべろりと舐める。「ん、」と色っぽい艶めいた声が漏れた。くく、そんな声も出せんじゃねえか。

 やがて白い首筋に目がいった。むしゃぶりつきたくなる。美味そうだった。捕食者である気で満たされていた俺はためらう事無く柔らかなそれに歯を立てた、―――その途端。
 それまで愛撫を甘受していた薄いからだが激しく暴れだしたのだ。なんだってんだ?一瞬目を見開くが咄嗟にその身体を押さえ込む。圧倒的に腕力ではこちらが勝っていた。必死の動きを全て封じられ、ついには痙攣すら始めるそれに俺は驚きをあらわに蒼を覗き込んだ。カーテンの隙間から零れる太陽の陽射しを反射したそれは、何も意思を映していない。本能ばかりが先立って、拒絶がその身体を占めているのだろう。死ねないと。生きなければならないといっていた。その意志だけがおそらくこの身体を縛っている。その理由は俺の知るところではなかったが。
 このままでは不味いと悟る。必死に宥めるために愛撫を再開する。ゆっくり舌を這わせる。落ち着けようと、ここには、お前の命をとる輩はいないのだと諭すために丁寧に想いを込めて。幾度も幾度も汗の味のする透明な肌に舌を這わせる。その身体から染み出すそれは確かに生きている人間の味がした。



 どれくらいそうしていただろう。俺はようやく再び愛撫に身を任せ始めたそれを出来る限り抱きしめていた。時折あやすように背中を撫で、目に映る柔らかな肌を舌で辿る。だがもう、歯を立てることはなかった。脱力し、やっと我を取り戻したのだろうそいつが声を発する。
「ごめんねぇー・・・もうだいじょうぶ。ねえ、して?」
「黙ってろ」
「萎えちゃった?」
 返答をせず無言でいると、えへ、と笑いながらそいつは俺から腕への拘束を解いた。そうしながらおもむろに俺の下肢の着衣を乱し始める。上着は愛撫の傍ら自ら脱いだが下着はそのまま、魔術師のそれは最初のうちに俺がとっぱらったわけだが。薄いシーツに包まったままそいつは俺の下半身に顔を埋める。そんな様子に俺はやはり無言で金色の旋毛に視線をやっていた。汗だくになっていたそいつの金髪にはつやがいっそう増している。こいつの生来の性格なのだろう、丁寧で的確にこちらの官能を煽るそれ。徐々に息が乱れ体温が上がる自身の変化に気がついた。卑猥なことをしているはずなのに、不思議と綺麗とも言える愛撫はどうしようもなく男の欲を刺激した。二の腕を掴んで引っ張り上げ、ぐるりとそいつの身体を組み敷く。
 やはりそいつは笑っていた。うっすらとくちびるの端を上げて、『笑って』いる。

(この嘘吐き野郎が)
 つい今まで俺の欲望を舐めていたそれを口に含む。嘗て慰めさせていたどんな女に対してもそんなことはしたことはないが柔らかでうねりながら受け入れる狭いそれの中はたいそう落ち着いた。ゆっくりと侵入し、自分のものだろう苦味がしたがそれも気にせず丹念に舐めとる。この口から、あの表情を消したかった。
 片手は奴の後頭部を掴み、口付けを続けるその傍ら、逆の手ではそいつの下肢に手を這わせて内腿を掴み開かせる。抵抗せずにすんなり開いたそれを辿り、俺はようやくそいつの中心に触れた。細い身体についている男の象徴。こいつも持っていると思うと少しおかしい気もしたが、そんな思考は追い出して芯を持ち始めているそれを柔かく刺激した。掌で包み込んで扱く。そうすれば奴は身を慄かせて身悶えた。腕にすっぽり収まる薄い躯。血の通うそれから目を反らして逃げようとするよくわからねえコイツの頭ん中。なのに薄いからだに留まり続けようとするこいつの無自覚の意志と、それを知って失わせたくないと願う自覚した俺の、おれ、の・・・?
 
  この感情は、なんと呼ぶのだろう。



 それを示す言葉を、この時の俺は未だ知る由もない。
 






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