ブログ | ナノ


2012/07/07 23:06


―――その国は安全だし、羽根は比較的手に入りやすいんじゃないかしら。たまにはお休みもいいんじゃなぁい?お酒も美味しいらしいし、ちょっと送りなさいな。情報提供料としてこれは妥当よね。むしろ義務。

 そんな風に気安く魔女が通信寄越してきやがった。酒を片手に随分機嫌が良さそうだ。ったく、知世姫といい、この女といい、使ったのを見たことはねえが金髪のへらいのといい、術を扱う類の輩ってやつはどうも気まぐれで、人を操作するのが好きらしい。すると思った通りへらへらの魔術師が小僧たちに提案した。

「そっかぁ、それじゃあ仕方ないね。小狼くんたちは美味しいお酒、探してこないとー」

 おい、へらっへらの顔がいつも以上に能面みたくなってるぞ。胡散くせぇ。明らかになんか企んでやがんなてめえ。

「うわーいモコナも行くのー♪」
「で、でもっ・・・姫の羽根が・・・!」
「うん、小狼くんの気持ちも分かるけどねー、ちょぉっとこのところ根を詰めすぎだよ。休憩もきちんとしてそれから。頑張って羽根探ししなきゃあ、ね?」

 先の国が戦の絶えない国で、姫の羽根を手に入れる為には自分に多少の無理を強いる小僧に、疲労の色が垣間見えているのは誰もが気づいていることだった。特に姫はさも心配気に小僧の様子を伺い続けている。そんな姫に魔術師は片目を瞑って同意を促した。
 奴がこういう態度に出たとき、小僧はさほど強く出られないことが分かってきた。それは恐らく、この魔術師は驚くほどこの手のタイミングが上手いのだ。普段の小僧であれば、頑なに羽根を捜そうとするだろう。だが小僧のギリギリの一線を見計らって、周到に休憩の手配をする。甘やかすためではない、次の羽根探しには出鼻からダッシュが効かせられるような、適正な小休止。小僧は自分でコントロール出来ないでいるので、時折奴が故意に舵をとってやるのだろう。

「分かり、ました」
「小狼くん」
明らかにほっとした様子の姫。白饅頭が嬉しそうに同調する。
「さすが小狼、そうこなくっちゃ!モコナも行くー♪」
「ああ、行こう。すみません姫。魔女さんにお酒を探さなければならないので、本格的な羽根探しは明日からになってしまいます」
「ううん、大丈夫。ぜんぜんいいの!」
「じゃあサクラちゃんはオレと一緒に用意しようか。お天気もいいし、お昼はお弁当なんてどう?」
「はい!」
「よし。小狼くんはお出かけまでのんびりしててー」
「わ、すみません姫、ファイさん!」
「とびきり美味しいのサクラちゃんが作るからー」
「が、頑張りますっ!!」
「わぁーいデートだデートだ!!」
「モ、モコナ・・・!///」

 ほのぼのとした日常が繰り広げられる。見慣れた光景だ。それから小一時間ほどキッチンで食材と格闘した後姫は四角い弁当箱を3つ誂え、はにかんでいるのか頬を紅く染めて小僧に向き合う。小僧も三つの弁当箱を片手に満更でも無い様子で「行ってきます」と礼儀正しく出かけて行ったのだった。


「ゆっくり楽しんでおいでよ」
 扉の外まで笑顔で見送りに出ていた魔術師が踵を返して部屋に戻ってくる。とりあえずコイツの、『小僧がぶっ倒れないよう休憩をとらせる』という本日の任務は完了だ。
「で?」
「んあ?」
「黒りんはどうする?とりあえず、お弁当のおかずの残りがあるからそれで一緒にお昼食べようねー」
 サクラちゃん、また上達したんだよーと嬉しそうに話しかけてくる。お前は兄貴か。いや、メシを教えてその成長を喜ぶってのは、それとはちと違う気もする。まあどっちでもいいが。
ふんわり揺れる金髪を横目で追った。奴らがゆっくり昼飯を外で食ってくるとなると数時間、この家には俺と魔術師二人ということになる。どちらも出かけなければ。そしてその出掛けると言う案も俺が奴の腕を引いたことで暗黙のうちに却下された。

「なにー?」
「分かってんだろが」
 するりとかわそうとする俺の掌には余る手首を逃がすまいと強めに握り返す。折角餓鬼がいねぇってなら、この機を逃すべきじゃないだろう。これを逃しちまえば次はいつ巡ってくるかわかりゃしねえのだ。
 如何にもいけ好かねえこいつととりあえず身体の関係を持つようになったのは、旅の始まりからそう間髪措かず。抵抗するこいつに強引に跨ったのは俺だが、誘ったのはおそらく…こいつだ。俺の意思と見せかけて、操作されている。だが、それに反して俺はこいつの『誘い』に乗ってしまった。仕える主に、己の意志に反して知らない異世界に飛ばされ、俺としても怒りのやり場がなかったことは事実だったからだ。その矛先を、旅の道連れとなった胡散臭い男に向けた。殊更荒く身体を暴いた。薄っぺらな面の皮を剥がしてやりたくて処女だったらしい小せえ穴にめちゃくちゃに突っ込んで揺さぶった。心底胸糞悪い反面、薄いカラダが抗えない痛みとほんの僅かな快楽に悶える姿はどうしようもなく俺の下劣な愉悦を沸き起こした。日本国では姫を狙う敵を切り刻んでは慰めていた己の奥底にあるどす黒い衝動。そいつを魔術師にぶつける事で和らげたのだ。お陰でこいつは翌日夕方までベッドで過ごすことになったがそれこそ俺の知ったことではなかった。自業自得。そうせせら笑った。

だがこの頃の俺は、魔術師を抱くことに幾分の爽快さと、もっとと沸き起こるえもいわれぬ欲望とを誰にも知られぬように腹のうちでひっそりと、漸く認めようとしていた。

この男を組み敷く行為はそれなりに悪くねえ。



 






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -