シャカシャカとイヤフォンから漏れてくる音への少しの苛立ちを覚えながら、田沼は「なまえ」と呼んだ。しかし当の本人はそんな田沼の声にまったく気づく様子もなく、イヤフォンから流れる男の声に耳を傾けている。
「なまえ」と今度はさっきよりも強く呼ぶ。すると今度はちゃんと聞こえたのか、方耳からイヤフォンを外して、「どうしたの?」とこちらを振り返った。外されたイヤフォンから漏れる男の声がさっきよりも大きい。
「音、少し大きいんじゃないか?」
「そんなことないよ。」
「俺の声聞こえてなかっただろ。」
「きこえてるよ。」
少しだけ怪訝そうに言うと、なまえは再びイヤフォンを耳にはめた。
「なまえ。」
「・・・。」
「好きなんだけど。」
音がまた少し大きくなった気がした。
(やっぱり、聞こえてないじゃん。)
雑音に紛れた本音
(今度はすぐそばで囁くから。)
(そんな男の声より、俺の声をきいてよ)