涼やかな春風が頬を撫で、私となまえの間をすり抜けて木の葉を揺らす。少しだけまだ肌寒い、気がした。

「寒くないかい?」

「大丈夫。」

緩く繋いでいた手が、ぎゅっと握られた。その手は暖かくて、少し肌寒い春風もちょうどよく感じられる。春風が揺らした葉が一枚、散った。今が秋であれば緋色に色づいているであろう紅葉は、まだ、青かった。

「なまえ。」

まだ染まっていない紅葉を見上げながら名前を呼ぶと「何?」と少し、不思議そうな返事が少し下から聞こえた。

「また、秋にここに来ようか?」

やっぱりまだ上を見上げながら尋ねると、なまえも私と同じように上を見た。

「紅葉、綺麗だろうね。」

そう呟くと緩みかけていた手と手をまたきつく結んだ。

「ああ。きっと綺麗だ。」

秋にはきっと見えるだろう。一面緋色の世界が。


(その瞬間、きっと見えるのは同じ世界)

夏目御題より


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