降り注ぐ日差しはもうすっかり春を告げているというのに、肌寒い風が春ののどかな雰囲気に浸ることさえ許さないかのように時折強く吹く。校庭の桜はまだ花咲く様子はない。寒々しい枝達が風になびいているだけ。そんな日に屋上で読書なんかしている自分がなんだか馬鹿らしくなって、先ほどからずっと風に遊ばれている本のページを閉じる。勢いよく閉じたものだから、少し端が折れてしまったかもしれない。まあ、いいか。とさほど気にする様子もなく夏目は屋上の扉へと歩き出した。いつも弾んだはしゃぎ声が聞こえてくる校庭からは、今日はわずかな声しか聞こえない。ヒュゥッとまた冷たい風が吹いた。

(寒っ---。)

早くこの寒さから逃れたくて夏目はドアノブに手を伸ばす。しかしソレは夏目が触れるよりも先にくるりと回った。ゆっくりと、ひらく。

「あ、夏目くん。」

「みょうじ。」

僅かに開いた隙間に見えたのは、同じクラスの隣の席のみょうじだった。

「屋上で本でも読もうかと思ったんだけど、風、つよいね。」

ドアの隙間から入った風が音を鳴らした。

「奇遇だね。おれも、だよ。もう帰ろうかと思ってたところだけど。」

「こんなに風が強くちゃ、読書どころじゃないもんね。寒いし。」

「たしかに。、ところで今日は笹田はどうしたんだ?」

いつもみょうじと一緒にいた笹田が今日はいない。

「純ちゃんは先生に呼ばれて今、職員室。夏目くんこそ、西村くんと北本くんは?」

「あいつらも先生に呼ばれて職員室。」

まあ、おそらく笹田とは大分違う理由でね。と夏目が付け加えるとみょうじもふわりと笑った。その笑顔に何だか気恥しくなって、夏目はつと視線を落とした。ふと目に入ったのはみょうじの持っていた本。見慣れたラベルがひとつ。夏目が持っている本にも同じラベル。

「それ・・・」

夏目が視線を本に向けたまま言うと、みょうじは自らも視線を落として短く、ああコレね。と言った後、

「今月のおススメだって。流されて借りてきちゃった。」

単純よね。と笑うみょうじに俺もだよ。と自分の本を見せると今度は2人で笑った。

「奇遇ね。」

「ああ、奇遇だ。」

風は穏やかに凪いでいた。桜はまだ咲かないけれど。

(わたしたち似てるのかもね。)

そう言って笑ったみょうじの顔が午後の授業の間中、頭から離れなかった。




(だって僕らは似ているから、きっと)



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テーマ「人外ファンタジー」
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