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どろり、とした

お前の世界の中心は、実はいつだってあいつだ。
だから俺がお前の光になったってそれは意味がないって、本当は知ってた。
どこか影のある笑顔は、あいつのせいなんだ。

「青峰くんに、もう一度笑顔でプレイしてもらいたいんです。」

随分前に聞いたそれが、妙に頭の中に残っている。
聞きたくなかったそれを口にする黒子の笑顔は、いつもより自然なような気がした。
気がしただけかもしれないけど、少なくとも俺はそう思ったんだ。






あの時の彼の絶望は、一体どれほどのことだったのでしょうか。
僕が一生知ることはないことだけどもし、自分がそうなってしまったら。
考えただけでも恐ろしいそれを、彼は現実で見てしまった。
ただ、バスケが好きで。
上手くなりたかっただけだったのに、自分の才能は残酷に開花してしまった。
驚異的なバスケセンスは彼の強さを引き出すかわりに、彼からライバルを奪い、相手のやる気を奪っていった。
目の前で諦めていく選手たちを見て、青峰くんの瞳は次第に死んでいきました。
光の灯らない水晶体を通して見たその世界はさぞつまらないものだったでしょう。
僕には、死んだように勝ち進む彼を見るのはつらかったのです。
笑顔が、見たい。
だから、勝たなければならなかったのです。

僕は、青峰くんのことが好きでした。


青峰くんに勝ちました。
火神くんが僕の光になってくれたことに間違いはなかったのだと、そう思いました。
彼に似ているその人が彼のように眩しかったのです。
所詮影の僕には彼らの真似はできません。
憧れて、しまうのです。

負けた時の呆然とした青峰くんの顔に、一瞬立ち竦みました。
彼のあんな顔は久しく見たことがなかったせいでしょうね。
勝ったのに少し胸が苦しくなってしまったのです。
でも、

「これで、終わりじゃねーだろ。」

あぁ、やはり火神くんはすごい。
あの青峰くんを少し笑顔にさせるのだから。

「次は負けねーからな。」
「はい。」

合わせた拳が触れたのはほんの一瞬だけだったはずなのに、そこからじわじわと熱が広がっていきました。
中学の、最初の頃に戻ったようで、嬉しくて。
でも、僕のこの心地の良い熱の理由を、高鳴る鼓動の理由を、上がってしまった口角の理由を、彼が知ることはないのでしょう。
中学のとき、告白でもしていたら何か変わっていたでしょうか。
きっと変わらないと思うけれど、限りなく低い可能性ですが、もしかしたら変わっていたのかもしれませんね。
なんて。







黒子の嬉しそうな笑顔。
よかったな、と言いたいのにちくりと何かが痛む。
やっぱり俺は黒子のことが好きらしい。
でも、それだけは絶対に黒子には言ってはいけない気がするのだ。

あぁ、黒子があいつのことを好きだと解ってしまうまえに告白していたら。



不思議と
後悔の味は甘い


どろり、とした、まるで蜂蜜檸檬のような甘さだった。
後悔なんて後味が悪いもんだとばかり思っていたのに。



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それでも、好きなんだ


蜂蜜檸檬」提出
up:20120803


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