夏の君
暑い暑い夏の日。
その日はいつもと同じようで、少し違かった。
「火神くんは、夏が似合いますね。」
「あ?何だいきなり。」
地獄のような体育館の暑さと外の蝉の大合唱が僕の頭をおかしくさせたのか、自分でもよく分からないことを言ってしまった。
違う、何か別の言葉を火神くんに言おうとしていたはずだったのに思い出せない。
言った言葉に嘘はないけれど。
だっていつだって彼は照りつける太陽のようにギラギラしているから。
僕はその陽射しに負けて、眩んでしまう。
だから、その光があるから、僕はもっと濃くなれるのか。
「…あつい、ですね。」
ダム、とボールがバウンドする音に、僕の言葉が掻き消されたようだった。
確かに、そうだったはずなのに。
「そうだな。殺人的な暑さだよな。」
彼はそれを拾い上げて、返してくれる。
僕が言った「あつい」は彼が言った「暑い」とは少し違う意味合いだったのだけれど。
ちゃんと僕の声が届いたことが少し嬉しくて僕は口許を緩ませた。
途端に、不機嫌そうな顔にこちらを見られる。
「…何笑ってんだよ。おかしいこと言ったか?」
「いえ…あついですね、本当に。」
融けてしまいそうなくらい。
彼に比べて、幾分か白くか細い自分は、まるで雪のようだと思った。
季節外れのそれは、君の前で融けて消えてしまいそう。
内から火照ってくる、その熱は確かに「あつい」のだ。
「俺が夏なら、お前は冬かもな。」
ふと、思い付いたように火神くんが僕を見てそう言った。
「何故ですか?」
「何故って…んー、俺とお前って正反対だろ。」
ぽん、と大きな手が、頭に乗っかる。
少し熱い彼の手がぐしゃぐしゃと頭を掻き回して、僕の熱と混ざっていった。
正反対だから、か。
彼らしい単純思考だ。
それにしても、暑い。
天井を仰いで僕はため息をつく。
冬生まれだからか、毎年夏の暑さに勝てたためしが…
「……あ。」
そうだそうだ。
何を言おうとしたか、やっと思い出した。
「火神くん。」
今日は、
「おめでとうございます。」
君の生まれた日だ。
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HAPPY Birthday.
これからも光でいてね
up:20120802