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目蓋にkissを

背中を、追いかけていました。
彼はその背中に凄く似ていて僕は錯覚して、彼の気持ちなんて考えずに。
そしていつの間にか。

恋心すら、錯覚して、抱いてしまっていたんだ。






「…ごめんなさい。」

黒子に告白されて、黒子に謝られた。
俺も黒子のことを実は大分前から気にするようになっていたから、告白に対してはちゃんと返事をした。
そしたら、今までのことを色々と話してくれて、それから謝られた。
別に気にしなくてもいいと、そう言いたかったのに、ちくりとした胸の痛みに邪魔されて言葉が出なかった。
別に、今俺のことを好きでいてくれているならいい。
いい、はずなのに、惨めだと思ってしまう自分がいる。
俺は醜い。

「僕は、青峰くんが、好きだったんです…。」

唇を噛み締める。
俺の目の前には今にも泣きそうに大きくて丸い目を潤ませている黒子。
何か、言わなきゃ。
でも、何を?
分からない。
痛い痛い。
耳を塞いでしまいたいのに、体はぴくりとも動いてくれない。
喋ってもいないのに口の中が渇いているような気がする。

俺は目を閉じた。
だって黒子のあんな顔、見たくないんだ。
あんな顔をさせてしまっているのは俺のせいだと分かってしまうから。
でも、それでも。
微かに震える目蓋の裏には黒子の顔が焼き付いて離れようともしない。
きっと眉間には皺がよってしまっているだろう。

「…火神くん、」

震えている声。
ごめん、ごめんな、黒子。
俺は弱かった。
自分が思っていた以上に弱くて、小さくて。
お前の心の片隅であいつが笑っているんだと思うだけで、こんなにも苦しくなってしまうんだから。

小さな嗚咽に、視界を開くと目の前には泣き出してしまった黒子。
ただただ涙を流しながら、眉を下げながら、それでも俺を真っ直ぐ見上げている。
…お前は強いんだな。

お前の中で、未だにあいつが笑っていると言うならば。
それでも、俺を好きだと言ってくれるのならば。

「…俺がお前を、好きでいてもいいのなら。」

その痛みに耐えてみせよう。

光る涙を指で掬ってやる。
それから、閉じられた目蓋に、そっとキスをしてやるのだった。



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僕は酷い男だ。
貴方とあの人、どちらも想うなんて


目蓋」提出
up:20120731


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