story | ナノ


0:04に、

真夜中に鳴り響く着信音。
これほど迷惑なものはないと俺は思うんだがどうだろう。
明日も朝から練習があるんだから勘弁してほしい。
あ、もう『明日』じゃないや。もう『今日』になってら。

頭の中でぐるぐると渦巻く文句に、余計に苛立ちを増幅される。
しかし起きてしまったものは仕方がない。
チカチカとランプが点滅を繰り返す携帯を開いたのが0:01。
ディスプレイには『新着メール一件』の表示。
こんな時間にメール送るなんて…誰だそんな非常識な奴は。
ボサボサになってしまった髪の毛を掻き回して、メールを開く。
…差出人はあいつだ。
ただ、本文が書かれていないそのメールは、俺の中の苛立ちをさらに大きくさせる。
なんだこのメール。
何かの嫌がらせか?

「……ん?」

どうやら、画像が添付してあるようだった。
なんだよ…なんで画像だけ?
思いながら添付データを開くと、なぜか俺んちの玄関前の写メ。

「…!?」

馬鹿かあいつ!
馬鹿なのか!?

訳がわからない。
でも出るしかないだろう。
携帯を握り締めたまま部屋を出て、しんと静まりかえった廊下を急ぐ。
玄関の扉の音が響かないようにそっと開けると、そこに。

「先輩っ!」

…黄瀬が、いた。
なんで真夜中に、俺んちの前にこいつがいるのか。
下手したら冗談なしに補導されるだろ。
しかも明日も早いというのに。
とか、常識的な考えが浮かぶその反対側で、会えたことが少し嬉しいと感じてしまう自分がいることに、我ながら呆れてしまう。
こいつが馬鹿なら、俺も相当の馬鹿者だ。

「…なんでいんだよ。」

驚きを隠せないでいる俺に、黄瀬はいつもの笑顔を見せて。
ふわり、と黄瀬の匂いが俺を包んだ。
思考停止した俺を抱き締める妙にあたたかいそこから規則正しい鼓動が聞こえて、やっと俺は『抱き締められている』ということを自覚した。
暑い。でも、どうしよう。
なんでか分からんが嬉しい。

「き、黄瀬…?」

もそりと頭を動かして見上げると、思っていた以上に近い顔に吃驚する。
いや、近いんじゃない。
近付いて、きている。

「き、せ…、」

柔らかく口づけられる。
優しく啄んだ唇が緩やかに弧を描いて、俺にこう言った。

「誰よりも早く、祝いたかったんす。」

貴方が生まれてきてくれた日を、ね。


7/29 0:04
俺はその日、二度目のキスをした。


--------------------------
HAPPY Birthday 2
生まれてきてくれて
ありがとう


up:20120729


[ back ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -