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「ちゅーしよ。」

突然高尾が言うものだから目を見開いて固まってしまった。
次に徐々に熱くなっていく顔にはっとして、思い切り顔を顰めた。
そんな俺に苦笑した高尾がまた同じ言葉を紡ぐ。

「ちゅーしよ。」

決してこの言葉自体に驚いたわけではない。
むしろ日頃からこんな発言をよくしているのだから普段ならば、ああ、またかで済むのだ。
しかし今回は状況が違った。
赤司との試合に負けたその日の、反省ミーティングの後の、帰ってきた俺の家の前でのことだったのだ。
こんな雰囲気の時にいくら二人きりだと言えどもいきなりそんなことを言うものだろうか。
不覚にも泣いてしまって腫れぼったい目蓋を気にしつつ高尾を睨む。

「んな怖い顔すんなって。折角の美人が台無しだろ?」
「馬鹿を言うな。大体、男が美人と言われて嬉しいわけがないだろう。」
「ふはっ!それもそっか!」

笑う高尾の声は明るい。
それでも顔は酷いものだった。
目元は腫れているし充血もしているし笑っている顔もなんだか元気がないように見えた。
この男だってつらいはずなのだ。
それなのに、いつものおちゃらけた様子でそんなことを言う。
邪険に扱うことなどできるはずもなかった。
でも、そんな気分にもなれなかった。

「…そんな気分ではないのだよ。」

言うと、へにゃりと顔を歪ませて笑った高尾が俺の手を取った。

「やっぱ駄目だよね。」

そう言って笑った顔がなんだか今にも泣きそうで。
こっちまでまた泣いてしまいそうになる。

「…ね、真ちゃん。どうしても駄目?」

声が、震えている。
その心中を俺は知っているような気がする。
むしろ俺も同じ気持ちであると思う。
それでも、それは確信ではなかったから、臆病者になってしまった俺は高尾の次の言葉を待った。

「…まだ涙が、出たがってて仕方がないんだよ、なぁ、真ちゃん、」

叫びたくて仕方がないや。

流れ出してしまった涙を隠すように、高尾の唇に噛みついた。
そんな俺の背中をを優しい手があやすように撫でた。





流れていくのは涙かな、それとも愛?

お互いがお互いの叫び声を呑み込んで、聞こえるのは微かな喘ぎと嗚咽だけで。
そんなことで愛を感じてみた。

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来年こそは、泣かない


title/sab title
ふたりへのお題ったー」題提供
up:20130115


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