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証拠がほしいのだ

どうしたって拒むことはできなかったし、しようとも思わなかった。
ただ練習で疲れきった体は力を入れることを忘れてひたすらに揺れる青の髪を見つめる。
もう少しちゃんと手入れをすれば綺麗だろうに、と手を伸ばして撫でるように触れると、ゆっくりと俺の瞳にその男の顔がフェードインする。
いつもは不機嫌そうな顔をしているくせに、このときに限ってはそいつはにやりと嫌な笑みを浮かべていた。

「なんだよ、若松サン。」
「…別に。なんでもねーよ。」

しまった。
このタイミングでそんなことしたらなんだか慈しんでそれをしたような、そんな雰囲気になる。
…いや、実際はきっと間違ってはいないのだろうけど。
急にこそばゆい気持ちになって手を引っ込めようとするとやんわりとその手を取って青い髪の元へと引き戻した。
いつもではあり得ないその行為に戸惑いつつも存外に甘くなってしまった空気に負けて、自分にしては至極優しく撫でてやると今度は無邪気な子供のように笑った。
なるほど、こうしてみるとこいつは本当に可愛い後輩だ。
中学生の頃のこいつの先輩もこんな気持ちだったのだろうか。
…違う。きっと、この糞生意気な後輩をこんなにもいとおしく思ってしまったのはきっと俺だけだ。
そう自惚れてみる。なんだか自分らしくもない乙女な思考回路に苦笑していると、不思議そうに俺の顔を覗き込んだ男と視線がかち合った。
少し青みがかったような黒に揺れる光は、いつから見れるようになっただろうか。
その原因が俺ではないことを少し残念に思いながら頭にあった手を褐色の肌に這わせた。
その手に少しだけ大きな手が被さる。

「…珍しいな、アンタから誘うなんて。」
「誘ってねー。」

誘ってんだろ。
そう言って口づけた、そのキスはいつもと何ら変わりはない貪るような、補食されているようなもので。
慣れてしまったそれを受け入れながら、侵入してきた舌をそっと噛んでみる。
ぐにゃりとした感触が、それでも今だけは甘く感じた。


確かに証拠がほしいと言ったお前にいつでも噛みつけるようにと喉を差し出した

だから早く甘く壊して


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欲しかったのはアンタだけだと、そんなことすらまともに言えない


title
へそ」題提供
up:20121230


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