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歪んだ笑顔は、ただただうつくしいと想った

君はどうして、そんなに頑張るのかな。
だって才能がないと絶望して、嘆いて、そうして一人で泣いていることを僕は知っている。
そんな厳しくてつらい環境に君を閉じ込めてしまおうと思ったのは僕だけれど。
だってそうして、逃げ場をなくせば、きっと僕のところにきてくれると。そう思ったから。
それは安直な考えだったらしくて、結局君は独り、耐えているのだけれど。
努力家なんだね。独りで平気だなんて、すごく強いんだ。
僕はね、弱虫だから。
だから独りでは生きられなくて、人を頼るんだよ。

そんな僕の顔は言葉と気持ちとは裏腹に笑っていたらしくて、嘘を言うな、とため息をつかれてしまった。

できることなら僕は君を閉じ込めて、滅茶苦茶に甘やかして、僕のもとから離られなくさせてみたい。
僕が必要で、僕がいないと何にもできなくて、僕に縋って。
そんなことができたらどれだけ良いことか。
抱きしめた僕よりいくらか高い体温がビクリと身を震わせた。

恐ろしいことをいいますね、君は。
一体どうしたんですか。

澄んだ声が問うけれど、僕は至っていつも通りであって、今日何かあったとかそんなことは全くない。
いつも通り、僕は君が好きで君は僕の手からするりと抜けていく。そんな関係だ。
今だってそう、抱きしめて、捕まえているはずなのに全く掌中に収めた気がしない。
薄く儚いその色は気付けば僕の眼前から消えてなくなっていて、まるで幻を見ていたかのような錯覚になる。
酷く綺麗な瞳には結局は僕は映っていないのではないのだろうか。
これだけ繋がっても心は繋がらないまま、なんて、酷く滑稽ではないか。


この行為に意味はない。
そう言ってしまえばそれで終わりなのだろうけれど、僕はそれでは嫌だ、と頭を振った。
我儘なのは僕の方であるけれど、もう少しだけ、君を手に入れたような気になってみたいんだ。
非生産的な快楽は、君に痛みを残して熱を何度も吐き出させる。
何でもないような顔でただ虚空を見つめて、君は今日も僕の話だけを聞いていた。
治まる気配のない気持ちの悪い熱と、君が心臓を脈打たせるたびに感じる心地の良い熱が僕を掻き乱してまた欲を植え付けていく。

ぐじゅり、と掻き回した熱に、苦しそうに顔を歪めたその顔はやっぱり綺麗で、僕はまた君に口付けた。
熱っぽい吐息の中で、確かに君はこう言った。…気がしただけかもしれないけれど。


ああ、君は本当に、怖いくらいに、綺麗ですね。赤司くん
僕は君が






人工的な幸せと酸素に埋もれて、鶏は命のない子を生んで、違うことは死と同義である、そんな生きにくい世界をきみはうつくしいとただ笑った

ねぇ、例えばさ。
この世界に僕と君と二人だけで、それならば僕は君を手に入れることはできたと思うかい?
まさかね。君がそんな簡単に捕まってくれるはずはなかっただろうね。




目を覚ませば、いつもの通り。
体温の跡だけ残して君は僕の部屋にはいなかった。


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言ってしまったら君は酷く落胆して、もう僕を追ってはこないでしょう?


sab title
へそ」題提供
up:20121028


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