story | ナノ


××してる

好きなんです。大好きなんです。
心の奥から想っているのに口にできないのはきっとこの関係のせいで。
壊したくない日常が俺にはあって、叶えたい欲望も俺にはあって。
何も考えずにあの人を俺のものにできたらどれだけ良いことか。
…そんな俺の葛藤を知らずに今日も貴方は俺に喝をとばした。
ああ眩しい。

俺は、貴方のことが好きなんです。



「俺、先輩が好きっス。」

驚いた顔をした先輩を見て、しまった、と思ったけど時すでに遅しの状態。
先輩の瞳に沈んでいる俺を見て愕然とする。帰り道の夕日のせいではない、真っ赤で情けない顔。ああ、恰好悪い。
言葉にしてしまった想いを頭の中で反芻して半ばパニックになりながら自分の頬を両手で押さえてじたばたする俺は傍から見ればさぞ滑稽だろう。
とにかく。ついうっかりでは済まないようなことを言ってしまったのだ。
相変わらず目を見開いてこちらを見る先輩。そんなに凝視しないでください。恥ずかしくて死んでしまいそうなんです。
大体、先輩がいけないんだ。いきなり、突拍子もなしに、好きな奴はいないのか、なんて。何でそんなこといきなり聞くんだ。(…多分、俺のファンの女の子に聞かれたんだろうけど)
お陰で焦って叫ぶように口走ってしまって…あ、自爆か。自業自得なのか?
誤魔化せばよかったのにこんな顔してちゃあばれたよな、きっと。

「……き、」
「わぁわぁあああ!聞こえません、何も聞こえませんから!」
「え、」
「と言うか何も聞いてませんよね?そうですよね!?」
「おい黄瀬、」
「っ何も言わないでください!」

怖い。
俺は答えを聞くのが怖い。
俺は耳を塞いで、先輩から顔を背けてしまった。不甲斐なさに涙が出そうだ。
気持ち悪い、と一蹴されてもいい。でも、これまで築き上げてきたこの関係を壊したくはない。
折角先輩の近くでバスケして、一緒に帰ったりできるようになったのにそれはない。
でもきっと、これ玉砕だろうな…ムードもへったくれもあったもんじゃないし、何より男同士ってありえないだろ。せめて先輩の卒業までは隠しておきたかった…ああ、可哀想な俺の初恋……。

「おいコラ黄瀬ぇ!」
「はいいいいいっ!?」

いきなりの先輩の喝に、いつもの調子で背筋を伸ばしてしまった。
吃驚するくらいの大きな大きな先輩の声は耳を塞いでいたはずの俺の手をいとも簡単にすり抜けて鼓膜を震わせてしまったのだ。
思わず手を放してしまう。と、今度は先輩のため息が聞こえる。

「…こっち向け。」
「…嫌っス。」
「いいからこっち向け!シバくぞ!」
「………。」

シバかれるのは嫌だ。あ、別に先輩にシバかれるのが嫌いなわけじゃないけど…って俺はマゾか。
仕方がないので恐る恐る先輩に視線を向ける。

「……え、」

そこには真っ赤な顔をして少し潤む瞳で俺を睨む先輩。
何で、なんでそんな顔してるんスか。それじゃあまるで…。

「勝手に一人でつっぱしんな、馬鹿野郎!俺だってなあ…っ」

駄目だ。もう駄目だ。
どうしてそんな顔をしているのか、俺は多分、分かってしまった。
気がついたら俺は先輩を抱きしめていて。それを振りほどく様子もなく腕の中に納まる先輩の鼓動が思いの外早かったことに、初めての感覚に、喜んだ。
好き。好き、大好き。

「先輩、好き。」
「…さっき聞いた。」
「俺が言いたいだけっス。」
「……。」

先輩。
先輩は俺のこと、好きなんスか?
低く唸った先輩は酷く不機嫌そうな甘い声で、自分で考えろ、と言った。
それって、俺が勝手に解釈してもいいってことですよね?
じゃあ、勝手に自惚れますよ?


××してるって言ってよ
俺、馬鹿だから。
こんな状況なのにまだ不安な気持ちがあるんス。
さしあたって、先輩。
まずはキスしてもいいですか。


調子に乗んな、と先輩は俺の唇に噛みついた。




--------------------------
不覚にもときめいちまったじゃねえか、馬鹿野郎


星空の恋路」提出
up:20121021


[ back ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -