差し出したのは毒
あぁムカつく。
最後まで諦めないといううざったらしい程の熱血さも、その体格を上手く使った奴のプレーも、いつも表情を隠している食えない笑顔も。
全部全部、壊してやろうと思っていたんだ。
…あぁ、ムカつく。
相変わらず、奴はそこに立っていた。
何かを守ろうと必死な姿は見ていて苛々する。
結局壊すことはできなかったらしく、奴は去年と変わっていなかった。
…去年の傷は癒えてはいないらしかったけど、必死で隠していた、といった方が合っているかもしれない。
チームのためと言って体を張って守る偽善者ヤローはそれでも顕在していた。
どうして奴のことになるとこんなにも苛々するのか。
まぁ、やっぱり俺はそいつのことが嫌いなんだな、と、それだけ思った。
苛々していた。
結局試合にも負けたし、傷を負わせることすらできなかった。
身体的にではなく、精神的な傷の方のことだ。
どうしていつも立ち上がってくるのか、理解ができない。
苦しいのならそこで堕ちてしまえばいいのに。
「…花宮。」
聞き覚えのある声に舌打ちをして、座っていたベンチをあとにしようと立ち上がったが、腕を捕まれて歩き出そうとしていた足が止まる。
こいつは俺の神経を逆撫でするのが上手いらしい。
「なんだよ。離せ。」
「嫌だ。」
「離せっつってんだよ!」
振りほどこうと藻掻いたが、力では奴には勝てない。
それどころか見たくもない顔を見る羽目になってしまった。
心のそこからムカムカがこみ上げてきて、自分でも分かるくらいに顔を歪めた。
奴は苦笑して俺の腕を掴んでいた手の力を緩めた。
今なら振りほどける、けれど俺はできなかった。
動かない。
それどころか涙が出てきそうで、やめろ、何で俺がこんなことで泣かなければいけないんだ。
奴はいつもみたいにすべてを悟っています、みたいな顔をしていて、本当に嫌なやつだ。
「お前は…怖いんだな。」
何を言い出すのか。
反論したいけれど声すら出ない。
唇が震えて、それを隠そうと必死に噛み締めた。
馬鹿みてぇ。
「自分が傷つくのは、誰だって怖い。だから身を守るんだよ。」
ゆっくりと脳内を侵食していく声は、猛毒。
自分の理念をどろどろに溶かして要らないものを隙間に入り込ませていく猛毒だ。
そんなものはいらなかった。
俺はただ、勝ちたい。
こいつなんかに負けただなんて思いたくない。
「…俺のことは、お前には関係ないだろ。」
「関係なくても、俺はお前のことが好きだから、だから気になるのは当然だろ?」
またお得意のみんな仲間精神かよ。
そんなものはいらないんだよ。
歪んだ顔や妬みや恨みこそがその毒の下薬剤なんだから、そんな甘い毒はもう沢山なんだ。
「俺はお前のことが嫌いだし、お前も俺のことが心底嫌いなのは知ってるんだよ。」
うそつき。
平気な顔で嘘をつくそいつは、やっぱり食えない奴で。
あぁ、ムカつく。
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凍てつく表情は残酷なほど美しく
睨まれる。
切れ長の目が俺を捕らえて、その視線にぞくりとした。
毒のある花は美しい、と昔どこかで聞いたことがあるけれどその通りだと思った。
やはり、花宮は綺麗だ。
どうしてもほしくて追いかけてみたけれど、その花が俺に媚びることはなかった。
嫌いだけれど、大好きなんだ、なんてどうして思ったんだろう。
苦しいのは、きっと目の前の花の毒に侵されたからなんだろう。
残酷なほど美しい猛毒は、俺を狂わせて、また消えていった。
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結局想いはすれ違う
sab title
「stardust」題提供
up:20120919