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つまり、一緒にいて?

今日もぬかりはない。
朝からテレビをつける、という習慣は一体いつから続けていることだっただろうか。
そんなことをぼんやり考えながら液晶画面を見つめていた。
占いなんてものは一種の願掛けのようなものに過ぎない、と言われてしまったのはつい最近、とある先輩からだった。
確かに、占いには科学的根拠はない。
しかし現にそれで順位がいい日には決まって調子も良くなるから、と反論すると「それ、多分暗示とかだろ。」と言われてしまった。返す言葉もない。
まぁ、それで調子が上がるならいいのだろう。

「今日は…、」

いつもの女子アナウンサーが作った声で読み上げる声を聴いて、顔を歪めた。



「よぉ真ちゃん!見たぜ、今日最下位だってな!」

席に着くとからかうように笑いながら話しかけてくる高尾に苛つきつつため息を吐いた。
こいつは最近俺の真似をして、朝できる限り占いを見てきているらしい。
本人曰く「相棒のその日の調子を知っておいたほうがいいだろ?」とのことだが、別に相棒になった覚えはない。
しかもそのせいで最下位になった日はこうしてからかわれるようになった。
その事実に、またため息が出る。
今日は本当についてなさそうだ。
しかし、占いでは「今日は怒らず焦らず、静かに過ごしましょう」と言われていたので怒鳴らないようにしなければ。
ぐっと堪えて高尾を睨むと、肩を竦めて見せた奴はにっと笑った。

「で、今日のラッキーアイテムは?」
「あぁ、それならばこれだ。」

鞄の中から飴玉の袋を取り出す。
それに高尾は目を輝かせて「うっそ!?これこの間発売されたばっかのやつじゃん!」と叫んだ。
なるほど、行きがけにコンビニで適当に買ったこれは新商品だったらしい。

「ね、これ一個頂戴!」
「別にいいが…。」

答え終わらないうちに袋を破ってざらざらと中身を机の上に広げる高尾の、子供みたいな馬鹿面に思わず笑ってしまった。
一つ手に取って口に放り込むその顔がへにゃりと綻ぶ。
高尾は、甘いものが好きだったのだっけ?
味の好みなど聞いたことがなかったから知らなかった…いや、何故知っておく必要があるのか。知らなくていいだろう。
それでも心の片隅に、確かにそれを書き留めている自分がいるのだから、呆れたものだ。
…占いのラッキーアイテムのおかげでそんな高尾を見ることができたのだ。
やはりおは朝の占いは、自分的には当たっている。

「ところでさ、真ちゃん。」

カラリ、と飴玉を転がして、高尾が俺の顔を覗き込んだ。
近い、と少し顔を背けると「照れ屋さん」だなんて鼻を突かれて。
睨んでみるがやはり効果はないようだった。

「…なんなのだよ。」

仕方なく聞き返してやると高尾は俺の机に腰を落とす。

「俺さぁ、今日占い一位だったんだよねー。」

そういえば、と俺も今朝の占いを思い出す。
蠍座は確かに一位だった。

「…それがどうかしたのだよ、というか嫌がらせか?」

顔を顰めると苦笑いしながら「違う違う」と手でジェスチャーされた。

「真ちゃんさぁ、自分の今日のラッキーパーソン、覚えてる?」

そう言って首を傾げてみせた高尾に俺も首を傾げる。
あの占いでは一位と最下位の人には、ラッキーアイテムの他にラッキーパーソンとパワースポットを紹介してくれる。
もちろん今日も、俺はそれを見てきた。
忘れているはずはない。

「もちろんなのだよ。今日のラッキーパーソンは蠍座の…。」

そこまで言って、やっとこいつが何を言いたいのかが分かった。
高尾は鞄から雑誌をひとつ取り出して、ページを捲る。

「この雑誌の占いによるとさ、眼鏡をかけてる奴と一緒にいるといいことがあるんだってさ。」



ラッキーパーソンは、君

つまりは
一緒にいろってこと


(…複数の占いを信じるのは意味がないのだよ。)
(え?そうなの?でも別に俺は信じてるわけじゃないし、ただの口実だから。真ちゃんが信じるかどうかじゃない?)
(……では、お前の口実に乗っかってやろうじゃないか。)

「飴玉、もう一個頂戴」と言うので、袋から二つ取り出して一つを高尾に差し出した。
もう一つ、口の中に放り込んだ球体は甘く、甘く溶けていく。
その甘さに目を細めながら、俺は家に連絡するために携帯を開いた。
こいつのペースに流されてるだけなのに、ちょっと幸せだなんて、あぁ、やっぱりおは朝の占いは当たるではないか、と以前それを否定した先輩の顔を思い出した。



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君の事をもっと知りたいから、だから興味があるフリなんかしたんだと思う


sab title
stardust」題提供
up:20120917


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