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謝んな笑え

練習後。ちょっと声をかけただけなのにびくりと肩を震わせて謝りだす桜井に、思わず苦笑した。
何も言ってない、と言うと、すみません…。また謝った。
こいつは謝ることしか知らないのか。

「あ、あの…それで、何ですか?」

その言葉に、一瞬忘れかけていた用件を思い出した。
俺は咳払いをひとつしてから桜井に笑顔を向ける。

「この後、空いとるか?」

ぽけっとした顔で、あ、はい、なんて返事をする様が可笑しくて笑ってしまった。

暦上秋とは言えど、まだまだ暑さの残る日が続いている。
日は落ちかけているのにうるさい蝉の声を聞きながら桜井と並んで歩く。
まだおどおどしてる桜井は俺を横目で何度もちら見してきている。

「…なんや。」
「あ、いえ…。」

俯いた隣の男が至極小さな声を発する。

「なんで今日、一緒に帰ってくれたのかなって…。」

だって、家。方向違うでしょう?
、なんていいやがる。
何でって、大分前に(一方的にだけれど)交わした約束のためなんだけど。

「…桜井。」
「っはい?!」
「…プッ、そんなに構えんでもええて。」

無駄に身構える。この男は本当に面白い。
俺はそいつを見て、それから、問題です、と口を開いた。

「今日は何月何日でしょう。」
「え?」

考えて、今日の日付を呟いた桜井が何かに気付いたようにぱっとこちらを見た。
それから、少し赤くなった頬。
心なしか嬉しそうなそいつに、逆にこっちが喜んでいることは分からないだろう。
鞄の中から綺麗にラッピングされた包みを取り出して手渡す。

桜井は、小さく笑って謝った。




謝んなよ。
笑ってくれればそれでいいから。
お前が死にそうなほど絶望的な顔で俺に好きだと言ってくれた時の約束や。
覚えてないならもっかい言おか?
『特別な日は、二人で祝おうな。』
だから今日は二人で同じ歩幅で帰ろう。


「誕生日、おめでとう。」

だからどうか、笑って俺を見てください。


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Happy Birthday.
今日くらいは謝らないこと


(一日遅刻…sorry…)
up:20120910


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