昼休みは君と二人
昼休み、誰にも気にされることなく窓際の自分の席で読書を嗜んでいた。
ぱらりと紙が捲れる音が外で風に揺れる木々の音に妙に溶け込んでいくように思えて、酷く心地良い感覚に襲われる。
ゆったりとしたこの時間が、僕の日課だ。
「……おい。」
…誰も見ていないと思っていたのに突然声をかけられて思わず肩を揺らしてしまった。
本から視線をはずすと、前の席の主である火神くんがこちらをみて呆れた顔をしていた。
「やっと気づいた。」
「あ…すみません、何度か呼んでましたか?」
「呼んだ、何回も。つかどんだけ集中してんだよ。」
頬杖をついて火神くんが顔を顰めるものだから、彼には悪いけれど少し優越感に浸った。
僕のことを呼んでくれていたんだ、それも何回も。
昼休みなんだから教室を出たっていいのに、わざわざ僕の前に座っていてくれていた。
それは僕と過ごしてくれるってことですよね。
そうではないとしても、思って自惚れるくらいはいいでしょう?
「…何ニヤニヤしてんだよ。」
「してません。」
うっかり顔に出てしまっていたようで、しかし僕はそれを否定した。
目の前に座った彼は、うそつけ、と笑っている。
その笑顔が眩しくて、僕は目を細めた。
どうして彼はこんなにも輝いているのだろう。
それはきっと、僕の中にある想いからなのだと、認めたくはないが思う。
紛れもない事実なのだろうから、仕方がない。
笑顔だけでどうしようもなく幸せな気分になってしまう僕は、本当にどうしようもない馬鹿なのだ。
恋は人を変えるらしい。
他愛もない話をして(主にバスケのことだけれど)こうやって向き合って笑えることは、僕は素晴らしいんだと思う。
心から、そう思うんだ。
「火神くん。」
「なんだよ。」
今、幸せです。
しばらくして、照れたような彼から、俺も……、と至極小さな声が返ってきたのを聞いた。
願わくばこの幸せが続けばいい。
そんな甘い期待を内に抱えて、僕は笑う。
そうすれば、彼も笑ってくれるのだ。
Please please
laugh for my happiness.
(僕の幸せの為に)
(どうか笑ってください)
恥ずかしいこと言わせんなよ、と彼がデコピンをした。
そこから熱が広がっていくのが分かった。
おかしくなって笑い合う。
僕は君の笑顔を見るたびに胸がときめいているという事実を、閉じた本にそっとしまいこんだ。
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今日もお前の前に座る
気付くまでの時間も、実は幸せなんだ
sab title
「雲の空耳と独り言+α」題提供
up:20120905