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その指先さえ

真ちゃんの指にはいつもテーピングがぐるぐる巻かれている。
正確なシュートを打つには爪のかかり具合も大事なんだって。
でも俺からしたら、真ちゃんには悪いけどちょっと嫌だなぁって思ったりする。
だって手を繋いでもテーピングの表面が俺と真ちゃんの邪魔をするんだもの。
真ちゃんの一番がバスケだってことは分かってるけど、俺なりに寂しかったりするんだ。




「…高尾?どうしたのだよ。」

いつもの放課後。
いつも通りチャリアカーの止めてある所まで手を繋ごうと催促した。
差し出された手には相変わらずテーピングが巻かれていて、思わずため息をついてしまって。
そうしたら真ちゃんが不思議そうな顔をして首を傾げた。
あ、可愛い。

「今の、可愛かったよ真ちゃん!」
「は!?な、何を言っているのだよお前は!というか話をそらすな!」

怒ってるのは照れ隠しだってバレバレだ。
本当に真ちゃんは嘘がつけない人らしい。
耳まで真っ赤にして怒鳴る真ちゃんは俺の背中を叩いてそっぽを向いてしまった。
…と、話がそれてしまったんだった。
とりあえず表面だけで謝ってなんとか機嫌を直してもらおう。

「…で?なんであんな残念そうな顔をしたのだよ。」

そうか、さっき俺は残念そうな顔をしていたのか。
それは気付かなかったよ。
嘘をつくのはわりかし得意なはずなんだけど…そんなに真ちゃんのテーピングが嫌だったのかな、俺。
こればっかりは言ってもはずしてはくれそうにないし、言うべきか悩んでいると「言うなら早く言うのだよ。」と真ちゃんがイライラしだしたのでじゃあ…と話を切り出してみた。

「真ちゃんの指のこと。」
「? 俺の指がどうしたのだよ。」
「いっつもテーピングでぐるぐる巻きじゃん?」
「それがどうしたのだよ。」
「んー…なんて言うか…なんか嫌なの。」
「…?」

ますます分からないというような顔をする真ちゃんに俺は苦笑して、真ちゃんの手を取った。
いつも通り、細い指。
綺麗な手だといつも思うのに、その白が邪魔をして試合の時しかちゃんとは見れない。
試合中なんて集中しなきゃいけないから結局ちゃんと見たことなんてないかもしれない。

「高尾?」
「…なんかさー、だって、真ちゃんと手を繋いでるはずなのに、真ちゃんの手の感触じゃないみたいでさ。」
「……。」
「まるで遮断されてるみたいで、距離があるみたいで、ちょっと寂しい…?」
「……。」
「まぁ…真ちゃんにとってはバスケが一番なんだろうから仕様がないことなんだろうけど…。」

気付いたら二人して手を見つめていた。
そうして、今度は真ちゃんがため息をついた。

「お前は何を言っているのだよ。」

呆れたような顔。
そうだよね、こんなことでちょっと落ち込むなんて馬鹿みたい。
いつものことなんだから、そんな分かりきったこと言わなければいいのに。

「ウソウソ!気にしないで…」
「そのくらい、言ってくれれば…外してやるのだよ。」
「…え?」

吃驚して真ちゃんの顔を見ると、さっきより赤くなっていた。
いや、それより、今俺の耳がおかしくなければ。
聞き間違えじゃなければ。

「…え、え?」
「〜〜っだから!て、手をつなぐときくらいテーピングを取ってやってもいいと言っているのだよ!」

「一回で解れ、バカ尾!」とまた怒り出す真ちゃんは本当に可愛いと思う。
わざわざテーピングを外して差し出してくれた手に、真ちゃんからの愛を感じる。
今ね、俺嬉しすぎて泣きそうなんだけど。

「やっぱ真ちゃん可愛いっ!」
「どうしてそうなるのだよバカ尾!」

必死に離れようとする手を握りしめて、俺は歩き出す。
しばらくして観念したのか、その手は俺の手を握り返してきた。






その指先さえ、俺のために。
そんな君が、俺は大好きなんだ。

あたたかい感触に俺が笑うと、微かに真ちゃんも笑ってくれた気がした。


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お前が望むなら、これくらい


up:20120815


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