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幸福な鼓動

最近、ちゃんと練習をするようになった。
相変わらず先輩にはどつかれるけど、それでも休まずに部活に出るようになった。
それはね、先輩。
黒子っちに、青峰っちに、負けて悔しかったというのもあるけれど。

何よりもそんな時、いつも支えてくれた先輩と一緒にいたいから、なんスよ。






「いつまでやってんだ。そろそろ鍵閉めるぞ。」

先輩にそう声をかけられて窓の外を見た。
皆が帰りだした頃はまだ日が出ていたのに、気付けばもう空は濃紺を広げていた。
体育館の時計を見ると20時52分をさしている。
約一時間半ほど自主練をしていたらしい。
…て、

「先輩!?なんでいるんスか!」

てっきりみんな帰ってもう誰もいないと思っていたのに。
先輩はそんな俺を見て不機嫌そうに眉を顰めた。

「だから、鍵。一年に任せるわけにはいかないだろ。」
「あ…。」

つまり、俺を待っていてくれたわけではないのか。
なんて思ったけど、よく考えたらそれって普通だよな…とか…勝手に落ち込んでいる自分は本当に馬鹿だと思う。
とにかく俺のせいで先輩が待たされているのだから、早く片付けて帰らなければならない。
ダラダラと流れる汗をTシャツで拭って転がったボールを拾った。

「早く着替えろよ、風引くから。ボールは俺が片付けといてやるからよこせ。」

よこせ、と先輩が俺に手を差し出す。
単純な俺はそんな先輩のちょっとした優しさが嬉しかったりして、馬鹿みたいに喜んでしまう。

「大丈夫っス!自分で片付けるんで。」
「馬鹿、俺は早く着替えてこいって言ってんだ。鍵閉めらんねぇじゃねぇか。」
「あ。」

そっか、そっスね、と笑って俺は先輩にパスを出す。
先輩はボールを受け取って、それから優しい笑みを俺に向けた。
その顔があまりにも、その、恰好良かったから、俺はドキリとしてしまう。
なんでそんな顔するんスか。
先輩への想いが溢れてしまいそうで、速くなってしまった鼓動を誤魔化すように俺は体育館を出ようとした。

「…最近頑張ってんな。」

ぴたり、と俺の動きが止まる。
まるで金縛りにでもあったように体が動かない。
それは先輩が優しいままの笑顔で、優しい声でそんなことを言ったからだ。

「お前はすごいよ。」
「…やめてください…俺はすごくなんて…。」
「いや、俺からしてみれば十分すごいよ。」

うつむいてしまった。
今きっとひどい顔してるから、先輩の前ではそんな恰好悪い顔見せたくなかったから。
…まぁ先輩の方が背は小さいからうつむいても見えちゃうんだろうけど。(そんなこと言ったらシバかれるけど)
そうしたら先輩は俺の髪の毛をくしゃりと掻き混ぜて。

「負けたから、次は勝ちたいから、落ち込まずに練習できるお前は、すごいんだよ。」

そういうことにしとけ、言って先輩は頭をポンポン叩いた。
心地良いあたたかさが溶け込んでいくようで、目を閉じる。

「さっさと片付けて、帰るか。」

え、と間の抜けた声をあげてしまった。
先輩がいつも通り、不機嫌そうに眉を顰める。

「なんだよ。不満か?」
「そ、そんなことないっス!ちょっと嬉しすぎて…っ!」
「は?」
「あ、いや、なんでもないっス!」

着替えてきます!と勢いよく体育館を出て部室に向かう俺の顔は、さっきまでの顔ではないことは明らかだった。
心地の良いこの胸の高鳴りは、先輩のせいだってことを、俺は知っている。


幸福な鼓動
トクン、トクン。ドキ、ドキ。
いつもより速い鼓動は貴方へのこの恋心で加速するんだ。




「遅ぇぞ、黄瀬。」

待っていてくれた先輩は鍵を閉めて、そのあたたかい手で俺の手を包んだ。
どうかこの鼓動が先輩に伝わりますように。
どれほど貴方への想いでいっぱいなのかを、分かって貰えますように。
そんな幸せな願いを込めて、俺は先輩の手を握り返した。



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知ってるよ、恋心


君とボールを追いかけて。」提出
up:20120814


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