story | ナノ


噛み付かないで

君は僕のことをなんだと思っているのだろうか。


大きなその口は次々にハンバーガーを消していく。
僕はそれをただ眺めながらバニラシェイクを喉へ流し込んだ。

「なんだよ。」

僕の視線に気づいた火神くんが、口を動かしながらこちらを見た。
なるほど、先輩が言っていた「リスみたい」とはこのことか。
試合中には考えられないような可愛らしさに思わず口元が緩む。

「いえ、ただ、よく食べるなぁと思いまして。」

そう言いながら口の端についていたパンくずを取ってやると、空になった口を開けてこちらを見るものだから、僕はその指を差し出す。
銜えられたその指を口内でペロリと舐められる。
なんとも言えない感触と熱に思わず肩が揺れた。

「ん、サンキュ。」
「いえ。」

小さな水音をたてて離した指先が外気に触れて少し冷たい。
一方で僕は茹だってしまったようにあつい。
顔に出てしまっていないか心配になって、ストローを銜えたまま俯く。

「お前、いっつもそれだよな。」
「え?」

不意に声をかけられてちらりとそちらを見ると、火神くんはどうやら僕が飲んでいるバニラシェイクを指差している。
確かにマジバに来るときはいつも買っているかもしれない。

「はい。」
「美味い?」
「美味しいです。」

そこで火神くんが屈託のない笑顔を見せる。

「一口くれ。」
「いいですよ。」

はい、とシェイクの入ったカップを差し出す。
しかし火神くんはそれを通り越して、身を乗り出した。
顔に影がかかる。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、唇の温かい感触と口の中に少し広がったハンバーガーの味で、ようやく理解した。
僕今キスされてる?
しかし、意識はしているがわりと冷静なもので、至極近くなった火神くんの顔をまじまじと見て「あ、睫長い」なんて考えている自分がいる。
…いや、冷静を保とうとしているだけとも言えるけれど。
歯がぶつかる、まるで噛みつくようなそれは、僕から酸素を奪っていく。

「うん、美味い。」

なんでもないようにそう言う火神くんを見て、そうか、僕らは今付き合っているんだっけ、と思い出した。


【噛みつかないで】
僕は君のおやつではないはずですよ。



(…何あれ。ねぇ、今の一体なんなの!?)
(今声かけるのだけはやめろ。)

しばらくして、降旗くんたちが僕らにぎこちなく手を降っているのを見た。


--------------------------
お前の唇は、甘い


up:20120811


[ back ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -