ちょっとそこまで
シュート成功率の低さに絶望しました。
どうしてこんなにも入らないのか、最早謎。
何とかしなければならないけれど自分では何ともできないのです。
そんな時、頭に浮かんだのが彼の顔だっただけ。
つい先日、試合で負かしたばかりの相手を呼び出すというのは些か気が引けましたが、そんなことを言っている場合ではありませんでした。
なにより今頼れるとすれば彼だけだったので仕方がないと自分に言い聞かせて、内心来てくれるだろうかと不安の影を残して送信ボタンを押しました。
暫くして。
「何だよ、わざわざ呼び出してきて。」
彼は来てくれました。
一緒にいたはずの桃井さんとの約束を振り切ってまで、来てくれたようです。
顔が見れたことに喜びを感じながら、そのために呼んだのではないと思い直し頭を振ります。
いや、本当は会いたいが為の口実だったのかもしれないけれど…。
「単刀直入に言います。青峰くん、僕にシュートを教えてください。」
言うと彼は理解ができないとでも言うような顔をしました。
無理もありませんね。中学時代では僕がこんなことを言い出すなんて有り得なかったことだし、そもそもそんな必要はなかったのですから。
だが今は違う。
僕はスタメンだ。皆を支えられるように、強くならなければいけない。
もっと皆の役に立って、皆で勝っていきたい。
…こんなバスケを君ともしてみたかったんですよ、青峰くん。
しぶしぶ練習に付き合ってくれる青峰くんは少しだけれど中学の、最初に会った頃の青峰くんのようで、余計に嬉しくなりました。
アドバイスをくれる君が、あの頃の僕にはどれほど眩しく嬉しいものだったのか。
分かってもらおうとは思わないけど、その頃と同じようにアドバイスをくれる彼は今も十分に眩しく見えるのです。
想像もできないような力を秘めた君が、本当に。
「…おい、聞いてんのか?」
ぼぅっとしていた僕の頭にチョップ、もとい制裁がくだる。
それから何故か、彼は笑った。
「なんか久しぶりなんだよな、こんなん。」
すっかり暗くなってしまった空を見上げて、満足そうにため息をつく。
その横顔を眺めている僕は今、どんな顔をしているのでしょうか。
「…こんなん、とは?」
「あ?…すっげーバスケしたい、とか、楽しいとか?」
その笑顔が見たかったのです。
青峰くん、君が一番輝いて見えたあの頃の顔って、確かそんな顔だったんですよ。
悔しい思いをさせてしまったけれど、やっぱり僕らは全力を出して君に挑んだ甲斐があった。
僕も、暗くなった空を眺めました。
町明かりのせいで暗く沈んでしまった空にも、確かに星は見て、思わず目を細めます。
弱々しいけれど確かに存在しているそれは本来ならもっと輝いているはず、なんですよ。
「…ありがとな、テツ。」
不意に聞こえた言葉に吃驚して隣、青峰くんの方を見ました。
彼は空を見上げたまま。
高鳴る心臓の音がばれてはしまわないだろうか心配でしたが、少し開いた距離を見てほっとしました。
彼からお礼を言われる日が来るとは夢にも思っていなかったのです。
「お前と試合して良かったわ、ホント。」
「…僕もです。」
「テツ。」
「はい、何ですか?青峰くん。」
彼は笑う。
あの頃のように。
そしてあの時と同じ言葉を僕にかけるのです。
「やっぱ好きだわ。」
「…そうですか。」
「相変わらずつれねーな。」
そんなことはないのです。
僕は嬉しくて張り裂けそうなそれを出さないように頑張っているだけなのです。
だってそんなこと言ったら、君は調子に乗るでしょう?
中学のときもそうでしたよね、確か。
「まぁいいや。」
そう言って僕の髪の毛をクシャリと掻き混ぜた君の手はあたたかくて大きい。
「なんかあったかいもんでも買って来るわ。テツは何にする…あ、あそこの自販で売ってるやつな。」
ほらそうやって。
優しい君は疲れている僕に気を使ってくれる。
昔からぶっきらぼうだけれど、本当は優しいんだ。
「いいです。僕も一緒に行きます。」
「そうか?」
「はい。」
そのくらい、大丈夫なんですよ。
だからほら、ちょっとそこまで。
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また一緒に練習、できるなんてな
up:20120807