story | ナノ


馬鹿、好き

今日も、部活が始まる。



着替えていると、パタパタと走っているような(実際走っているのだろうが)足音が聞こえた。
次にガラリと戸が開いて、顔を覗かせたのはやはりあの男だった。

「会いたかったぜマイハニー!」
「誰かこいつをつまみ出すのだよ。」

まるで漫才のようなそのやり取りは、ここ最近毎日のように繰り返されている。
よく分からないが高尾は何故か俺のことを気に入ったらしく、いつも俺の後をついてくるようになった。
登下校もわざわざ、毎回負けるジャンケンをしにくる。(そして案の定負けてチャリアカーを引くのだが)
鬱陶しいが、特に自分にマイナスになるようなことはされていないので放っておいたら、いつの間にかこいつがいることが当たり前になってしまった。
先輩方も止めてはくれないし、まぁ自分が招いた結果なのだから自分でなんとかしたいのだが、この場合はどう処理すればいいのだろうか。

「…何故毎日毎日俺に纏わり付くのだよ、お前は。」

ため息混じりに聞くと、いつものおちゃらけた様子でにんまりと笑った高尾が背伸びをした。
少し顔にかかっていた前髪がさらりと落ちて、顔が近くなる。
…断じてドキドキなぞしていない…はずだ。
これのどこにドキドキする要素があるというのだよ、全く。

「お前のことが好きだからに決まってんでしょ?」
「変な言い方をするな。」
「え?ホントのこと…はっ、まさかお前も…俺の事…。」
「素敵な勘違いをするのではないのだよお前に向かってシュートを打ってやろうか。」
「愛してるってか?照れるって!」
「本当に打ってやろうか?」

話が通じないことに疲労感がどっと押し寄せる。
この男は何故こんなにもとんちんかんなことを言い出すのだろうか。
大体、その『好き』はいったいどういう意味で言っているのか…。
まぁこいつのことだから冗談で言っているのだろうが。
…俺には、十分なダメージで。
正直に言うとこいつのことは嫌いではないし、言ってしまえば好きの部類に入る。
しかし、その好きとこいつの『好き』はきっと種類が違う。
俺はこいつに悟られたくはない。
だから冷たい態度をとりあえてはっきりと拒否までしているのに、今日もこいつは懲りずに俺のところにくるのだ。
結局、俺も俺で相手をしてしまっているのだから、自分で呆れてしまう。
惚れた方が負け、とはよく言ったものだ。
俺は確かに、こいつに負けてしまっているのだろう。

「大体、よく『好き』だなんて恥ずかしげもなく言えるものだな。」
「え?だってホントのことなんだから仕様がないじゃん。さっきも言ったでしょ。」
「もっと他の言葉はなかったのか。」

俺の隣で着替え始めていた高尾が、ぴたりと動きを止めた。
俺を再度見たその顔は先程のようには笑っていなくて、あまり見せないその妙に真剣な顔に、思わずドキリとする。
なんだ、どうしたんだ。
俺は何か変なことを言ったのだろうか。

「…他の言葉って?」

ワントーン低い声。
ぞわりとするようなそれに言葉が出ない。

「そ、れは…友人と、して…」
「真ちゃん、勘違いしないで。」

「その好きは、違う。」

それから、いつもの笑顔を。
…違う。
おちゃらけたような笑顔ではなく、ふわりとした優しげな笑顔を俺に向けた。

「早く着替えなよ。もう皆着替えて行っちまったぜ?」

そういえば、と見回すとざわついていたはずの部室は静まり返っていて、俺と高尾の二人だけになっていた。
そんなに時間は経っていないはずだが、恐らくいつも通り先輩方は早着替えをして行ってしまったのだろう。
なんとなく気まずい雰囲気の中、急いで着替えて部室を出る。
と、後ろから高尾の笑い声が聞こえた。

「…なんなのだよ。」
「いや、真ちゃん…もしかして動揺とかしちゃってる?」
「なっ…!?」
「ほい、忘れもん。」

そう言われて、高尾の手元を見るとそこには俺が持ってきた今日のラッキーアイテム(文庫本)があった。
俺としたことが、うっかりしていた。
まさか今日のラッキーアイテムを忘れる日がくるとは思わなかった。
それほどまでに今余裕がなく、更にニヤニヤするこいつに無性に腹が立った。
むかつく。あぁ本当にむかつく。

「…でさぁ、真ちゃん。」
「なんなのだよ。」

その顔のまま、高尾は言った。

「俺が言いたかったのはさ、真ちゃん、勘違いしてるみたいだけど…俺が言ってる『好き』はlikeではなくloveってことなんだけど。」

いきなり何を言い出すかと思えば…。
…つまりは、どういうことだ。
突然のことで思考が追いついてこない俺に高尾が一歩近付いた。

「…馬鹿なことを。」
「本気ですぅ。」
「…俺は男なのだよ。」
「知ってるよそんなこと。」

本当に、こいつはいつも分からないな。
そして俺も俺でなんて馬鹿なのだろう。
あってはいけないはずのこの事実を喜ぶなんて、相当の馬鹿だ。

「俺はね、真ちゃんに気持ち悪がられても、嫌われても、この気持ちだけは変わらないから。」

その言葉が、どれだけ嬉しいか、こいつには分からないのだろう。
ふわりと抱きつかれて高尾の体温が俺を包んだとき、俺より小柄なはずのそいつが大きいような気がして。

「…馬鹿なこと言ってないで、離れるのだよ。さっさと練習に行くぞ。」

多分、俺の鼓動はこいつに聞こえている。
だからこんなに嬉しそうに笑っているのだろう。
俺はな、高尾。
もともと素直にはなれない性格なのだよ。

だから、お前に隠れて笑うのだ。


「大好きなんだってばー…って今笑った?笑った!?」
「うるさいのだよ。」



--------------------------
好きなんだから仕方がないでしょ?


ギャグなホモ で5題
うち、4題抜き出し(台詞)
雲の空耳と独り言+α」題提供
up:20120807


[ back ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -