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食事を作るのは女の役目だと決め付けている世間には大変文句がある。世の中には料理が苦手な女性だっているのだ。昔からそう言っているのに、そんな世の中のこの家族ではそれが通用しない。父親はお菓子ばかり食べてアニメを見ているし、長男は働かないで読書や父親の世話、次男は副業で忙しそうだが我が儘で反抗期、三男はいい子だけど料理の腕は爆弾級。次男と三男はわかる。けれど父親と長男には憤りをおぼえる。あいつらに何度言っても家事をしてくれないので仕方なく料理をするが、あまり美味しくない料理を食べて文句を垂れるのは決まってこの二人だ。家政婦でも雇えばいいのに、家族の中に無関係な人間が介入することを良しと思っていないらしく、お金があるくせに自分たちで何とかしなくてはならなくなった。
今日は私以外の人間が出払ってしまったため、実に怠慢を楽しんでいた。もうすぐお昼だが、自分一人のために料理をして食器を洗うのが非常に面倒だ。冷蔵庫の中身は大体が材料のため手を加えずに食べられるものがない。いっそのこと食べなくてもいいか、と思っていた時、リビングにWが入ってきた。今日は一日いないはずだったのにどうしたのだろう。

「姉貴、……随分とひでぇ格好だぜ」
「なんとでも仰い」

ちなみに私の格好はかろうじて着替えてはいるが寝癖も直さず、ソファに仰向けに寝転がっているといった状態である。誰も見てないと思っていたから気を抜いていた。トロンが見たら「高貴じゃないよ」と言われそうだ。

「なぁ、もうメシ食べたのか?」
「食べてない。お腹すいたけど作る気もないし外出もしたくないから諦めて」
「ああ?」

Wが父さんそっくりの太い眉を寄せた。ただでさえ目付きが悪いのにそんな顔をしたら極悪人に見える。だがWの正体を知っている身内からしてみれば大したことはない。

「作れよ」
「作らない」
「使えねぇな」
「それはXに言って」

今日の私は折れるつもりがない。いくら言っても無駄だと判断したのか、Wは私に聞こえるように大袈裟に溜め息をついて頭を掻いた。そして視界から消える。どうするのかしらんと体勢を変えて目線で追えば、Wはなんとキッチンの方に入っていった。キッチンには夜まで入ってやるものかと思っていたが、つい向かってしまう。中を覗き込めばなんとWがまな板やら包丁やらを用意していた。

「何だよ」

キッチンの入り口の方で固まっていた私に気付いたWはしれっとした顔で言った。

「何してんの」
「メシ作るんだよ。見てわかんねぇのか」

冷蔵庫を開けて食材を確認している。一体何が起こっているのか。私はこれまでWが料理をするところなど見たことがない。それよりも私の分も作ってくれるのだろうか。

「姉貴も食うだろ」
「た、食べます」
「おう」

私は軽く混乱していた。Wが昼御飯を作ってくれていることにもだが、何より異様に素直なことにだ。ふらふらとリビングに戻り、再びソファに寝転がる。

「夢?」

実は私はまだ寝ているんじゃないだろうか。だとしたらまだ納得出来る。ぼうっとしていると眠くなってしまい、いつの間にか転た寝をしていた。

「おい」

雑に身体を揺らされて目を覚ませば、不機嫌な顔をしたWが視界に飛び込んできた。やっぱり夢だったのかもしれないと起き上がれば、机の上にオムライスが二つ置かれていた。焦げてもいないし形もいい。

「W…」
「まだ寝惚けてんのか」
「いい子」
「ぐっ」

Wの頭を撫でながら立ち上がる。Wはどうやら照れているらしかったが、ご飯を目の当たりにしたらよりお腹がすいてきた。いただきます、と手を合わせてスプーンでオムライスを裂く。とろりと半熟。口に運べば卵とライスの絶妙なバランスが広がった。

「W…」
「ンだよ」
「美味しい」
「……ん」
「何でいつも作ってくれないの!」

私より全然上手だ。一体いつ作れるようになったのだろう。Wは性格は不器用だが手先は器用だ。オムライスというチョイスも可愛い。食べてしまうのが勿体無いような気がしたが、お腹が鳴ってしまったので完食することにした。