・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 朝には紅茶がいいとガンマが言うものだから、起床してすぐに身支度をし、お湯を沸かしてティーポットを温めることを日課としていた。ガンマのこだわりは異常なほどで、ゴールデンルールに則っていなければ気が済まないらしく、水やカップの色にも気を遣っている。生憎私にはどうでもいいことだし、特別紅茶が好きというわけでもないのだが、ガンマがどうしてもと頼むので断りきれなかったのだ。最初のうちは酷い言われようだった。茶葉の旨味を生かせていないだとか、色が悪いだとか。文句を言うのなら自分で淹れたらいいのに、と思ったが、悔しくもあったのでインターネットで調べ尽くした。その甲斐あって、今では手順を見なくても淹れ方がわかる。最近はガンマも認めてくれるような紅茶を淹れられるし、彼の好みもわかってきた。 眠気と戦いながら紅茶をカップに注いで蒸らしていると、どこからかガンマがやって来た。早朝だというのに乱れもなく、余裕たっぷりのガンマは歩くスピードや足運びにも神経を伸ばしている。ガンマ生き方は非常に疲れそうだが、己を格好よく見せるのに努力は惜しまないのだろう。 「おはようガンマ」 「おはよう」 ガンマが近付いて来て、椅子に座っている私の髪をそっと撫でた。眠くて靄のかかっていた頭がさっと晴れる。慌てて触られた場所を押さえれば、ガンマはクスッと笑って「寝癖は直した方がいいな」と肩をすくめた。誰のせいで寝癖すら直す時間がないと思っているのだろうか。ガンマは対面の椅子に腰を下ろすと、ティーカップの上に乗せていた小皿をそっとどけた。十分に蒸らされたそれの香りをかぐ仕草も洗練されている。ティーカップを持つ指先も、持ち手の穴に指を通さずつまむようにしていてマナーもいい。ナルシストなところがなければ本当に出来た人間だ。ガンマは音もなく紅茶を口に含む。私も同じようにして一口含んだ。我ながら上手に淹れたものだ。 「スマート、やはり君の淹れたものが一番だ」 「それはよかった」 「朝食もあると嬉しいところだが…」 「サンドイッチとヨーグルトならあるけど」 「流石だね」 お湯が沸くまでの時間にサッと作ったものだが、サンドイッチに美味しいも不味いもない。パンは新しいものだからふわふわだし、挟んだ野菜やハムも新鮮だ。キッチンの方に置いてあったサンドイッチを乗せた皿をガンマの前に差し出せば、珍しくふわりと笑いかけられた。昨日の任務をマスターに褒められていたから上機嫌なのだろう。もう一度キッチンに戻り、グラスにヨーグルトを移す。中央にブルーベリーを飾って完成だ。グラスを二つ持ってガンマの座る席に戻る。 「君は食べないのかい?」 「朝から食べ物入らないの」 「ふぅん」 スプーンでヨーグルトを掬いながらガンマを窺う。人は物を食べる時に油断している。ガンマは上品に口を開けるとレタスやハムを綺麗に揃った歯で噛み千切った。少しでも格好悪い彼を見ようと思ったのだが、その思惑は見事に玉砕した。彼のカリスマ性は悔しいが認めている。そんな完璧な彼に褒められる機会など、早朝のこの一時しかないのだ。 ← |