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黴臭いようなにおいが地下にあるこの部屋を支配していた。室内には夥しいほどの実験器具があり、床には赤黒いシミが走るようにあちこちに散らばっている。片隅には腐臭を纏った面影のない子供だったものが無造作に捨てられていて、その傍でまだ呼吸をしている少年は全裸のまま眠っていた。燃えるような赤い髪と同じような色をした液体が少年の腕から流れ出ているが、少年自身、そのことを気にしてはいなかった。
痛みとは、人間を拘束する一つの術である。この少年は痛みによって身動きがとれない状態でいる。それに連鎖して、恐怖も生まれている。毎日の惨劇のような実験は、少しずつ少年の小さな心をえぐり、削ぎとっていた。

「南雲晴矢、起きろ」

部屋に入って来た全身を白い衣服で装飾した者達の一人が、くぐもった声でこう言い、南雲と呼ばれた少年を蹴飛ばした。びくりと身体を痙攣させて、琥珀色の瞳を大きく開いた南雲は、光のない瞳のまま立ち上がり、大きく息を吸った。そしてふらふらと実験台の方へ自ら足を伸ばす。だが、拳は固く握り締められており、それだけが虚ろな彼の様子から浮いていた。台の上へ乗せられると、四肢を大きなベルトで固定される。ベルトをするときはいつも痛みを伴うものだった。一人が手にアメジストのような鋭利な石を持って、南雲の顔の方へ持って行った。そのまま、南雲の目尻にその石を深く差し込んだ。轟く悲鳴が反響する白い部屋。絶叫も虚しく、差し込まれた石は頬をえぐって腮まで到達した。病的な白い頬に深紅の血が噴水のように溢れ出し、裂かれた肉は顆粒状になって鈍い光沢を発していた。焼けるような痛みに気絶してしまいそうになる南雲のもう片方の目尻に、鋭利な石が突き刺さった。いっそのこと気絶してしまいたい意思とは逆に、襲いくる痛みがそれを妨げる。のけ反る背中を押さえ付ける大人達は、その口元を歪めていた。



目を覚まし、頬に激痛が走りもがいていると、ぺたんぺたんと裸足で歩いているような音がした。荒い呼吸のまま目線だけを動かすと、そこには一人の少女が全裸でこちらを見ていた。その目は、硝子玉のような人工的な何かを連想させる。白く細い四肢もまた、人間でないもののような、けれど触れたら柔らかそうな形態をしていた。

「南雲晴矢でしょう」

荒い呼吸をしながら頷けば、その少女はふわりと微笑んで南雲を抱き締めた。

「可哀想。実験台にされてしまったのね」

カナリアのような美しい声が南雲の心を癒していく。少女は南雲を抱き締める力を弱め、紅蓮の髪をゆるやかに撫でた。

「私はエリス。貴方を癒す存在よ。よろしく」

傷が出来た南雲の頬に柔らかく温かな唇で接吻した。痛みが微かに和らいだような気がしたが、南雲はそのまま意識を失った。

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