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「達くん本当にごめんって、機嫌直して、ね?」

ボーダー内にある達くんの部屋の隅で、無表情で膝を抱えている達くんは、キノコでも生えそうなくらいジメジメとしたオーラを出している。落ち込む達くんをなんとか慰めようと、目の前にしゃがみ込んであやしてみるが、達くんは「あかんやろ……」と、片目からほろりと涙を流して呟いた。

「あかんやろ、俺エリスちゃんの彼氏なんに、大好きな彼女の誕生日知らんのは……」

達くんの言う通り、今日は私の誕生日だった。達くんと付き合って数ヶ月経ったが、これまで誕生日の話題になりそうになると、なんとなく誤魔化してきていた。達くんはその誤魔化しに気づくことなく、今日を迎えてしまった。
私は直前まで誕生日のことを伝えるかどうか悩んだ。もし、今日達くんの顔を見て、言えそうだったら言おうと思っていたのだが、達くんと出会う前に菊地原に会い、「今日誕生日なんだってね」と言われた。ボーダー内で私の誕生日を知っている人は、数は少ないが存在するし、実際に声を掛けてもらった。菊地原はおそらく持ち前のサイドエフェクトでその会話が聞こえたのだろう。「ありがとう」なんて菊地原に返してその場は終わった。しかし問題はその後で、なんとこの会話をよりによって達くんが立ち聞きしていたのだ。彼氏の自分が知らなくて、他の人が知っていたという事実と、本人から教えてもらえなかったということに達くんはひどく落ち込んでいる。

「言おうと思ったよ。思ったんだけど、人に誕生日を教えるの苦手で……」
「俺、彼氏……」
「わーっ、ごめんって。達くんに言ったら、すごく張り切ってくれそうだから、余計に言い出し辛くて」
「なんでや! かわいいエリスちゃんの誕生日、張り切るに決まっとるやろ!」
「だからそれが申し訳なくてぇ」

うずくまる達くんをぎゅうっと抱き締める。普段ならとても嬉しそうに抱き締め返してくれるのだが、今日の達くんは大分拗ねてしまったのか、されるがまま無反応だ。試しに達くんの頭を私の胸に埋めてみた。少しもぞ、と動いたが、効果は今ひとつのようだ。

「私から伝えなかったのは本当に謝るよ。でもほら、まだ私の誕生日終わってないし、お祝いしてくれる?」

そう言うと、達くんは顔を上げて「そやな」と機嫌を治した。思っていたよりも早く回復したので、ほっと胸を撫で下ろす。

「プレゼントは今日はもう間に合わんけど、ケーキやったら一走りで買うてくればええし」
「ケーキも今日じゃなくていいよ」
「あかん! ケーキは絶対当日やろ!」
「そ、そう……」

そうと決まれば、と立ち上がった達くんの服を引っ張る。「どないしたん?」と達くんが私をじっと見つめた。
なんだか、欲が出てきてしまった。さっきまで、誕生日を祝ってもらうことが申し訳ないなんて思っていたのが嘘みたいに、うずうずしてしまう。
もし事前に誕生日のことを伝えていたら、達くんはどんなプレゼントを用意してくれただろうか。とことん調べ尽くしたものか、私が好きそうなものか。もしかしたら、大きさイコール愛情みたいに、大きなクマのぬいぐるみをくれたかもしれない。

「エリスちゃん?」
「ケーキ、どんなの買ってくれるの?」
「店で一番デカいイチゴのやつに決まっとるやん。プレートはもちろん『エリスちゃんお誕生日おめでとう』やで」
「食べ切れるかな?」
「明日までに食べ切る」
「明日まで一緒にいてくれるんだ?」
「そりゃそうやろ。エリスちゃんの誕生日、半日じゃ祝いきれん」

達くんは真顔でそう言うと、ばっと手を広げた。私もばっと手を広げて達くんに飛びつくと、達くんは狭い部屋の中で私をぐるぐると回した。

「いたっ」
「すまん!」

タンスに足をぶつけてしまった。達くんは慌てて回転を止めて、私を抱き竦める。

「とにかく今日と明日、目一杯お祝いさせてな。おめでとうエリスちゃん」

ちゅっと唇に可愛らしいキスをされて、また抱き締められた。じわじわと胸が温かくなる。遠慮なんかしないで、初めから伝えればよかったな、と思いつつ、達くんの首に腕を回した。


20210805

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