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来馬先輩から差し出されたものを見て、驚きのあまり「びゃっ」と謎の声が上がってしまった。そんな色気のない声を聞いても、来馬先輩は優しく微笑んでいる。
大好きな来馬先輩から連絡が来たのは昨日の夜で、『明日か明後日、少しだけ時間取れないかな?』という文面だった。そのメッセージを見た私は、「来馬先輩本部に来るのかな? やった〜」なんて暢気なことを思いながら『いつでも大丈夫です!』という返事を何も考えずに送ってしまったのだった。
そして今日、私の隊の作戦室にわざわざ来てくれた来馬先輩の手には、水色の包装紙とふんわりとウェーブした白いオーガンジーのリボンに包まれた、ブーケ型のアクアバルーンが抱かれていた。バルーンの中にはピンク色のお花と、棒に刺さった小さなクマのぬいぐるみが閉じ込められている。そしてバルーンには、きらきらとしたhappy birthdayの文字。

「誕生日おめでとう」
「ええー! あ、ありがとうございます!」
「今ちゃんから誕生日のこと聞いたのが当日の夜だったから、少し遅くなってごめんね。よかったらもらってくれないかな?」
「すっごく嬉しいです……」

来馬先輩からアクアバルーンを受け取る。普通に生きていて誕生日に花束をもらうことなんて滅多にないのに、プレゼントとしてアクアバルーンを抱く日が来るなんて思ってもいなかった。わあわあと言いながら、バルーンを眺める。中に入っているお花もクマも、リボンも包装紙も全て来馬先輩が私のために選んでくれたのだろうか。お店の人のチョイスだとしても、私のために用意してくれたという事実が嬉しくて、胸が温かくなる。

「クマちゃんかわいい」
「風船が萎んだら助けてあげて」

まるで子どもに伝えるように、ふふ、と微笑む来馬先輩の言葉にきゅんとする。来馬先輩は将来保育士にもなれそうだ。そうしたら絶対子どもに好かれるんだろうな。エプロン姿を想像してニヤける。

「クマちゃん、くーちゃんって名前つけます。来馬先輩の、く!」
「それはちょっと恥ずかしいよ」

目を細めて頬を掻く来馬先輩に、「もう決めちゃいましたから」と笑い掛ける。改めてブーケを抱き締めて、両手いっぱいの喜びを逃さないようにした。

「でもよかった。ここに太一がいたら絶対風船割られてます!」
「う、うん。そうだね」
「来馬先輩?」

太一の名前を出した途端、来馬先輩が「うーん」と何かを考え始めた。
もしかして、太一はすでにバルーンを割ったのではないか。本当はバルーンが二個あったけど、そのせいで一つになってしまったのが後ろめたいとか。でも私はそんなの全然気にしませんから、なんてことを考えていると、来馬先輩は肩に掛けていたカバンから何かを取り出して、私に差し出してきた。小さな紙袋に入ったそれを反射で受け取る。

「これは?」
「これは、もし太一が割っちゃった時用にと思って……」
「み、見てもいいですか?」
「もちろん。あ、持つよ」

ブーケを持ってもらったおかげで両手が空いた私は、おそるおそる紙袋のシールを剥がして、中に入っていたものを確認する。

「はわっ!」

中には陶器のような石で出来た、白と黄色の小さなお花のイヤリングが入っていた。さり気なくてどんな格好にも合いそうだ。
来馬先輩は私にピアスの穴が開いていないことを知っていたのだろうか。いや、イヤリングならどっちでも着けられるから、こちらを選んでくれたのかもしれない。思わぬ追加のプレゼントに、「来馬先輩……!」と言う声が震えた。

「女の子にアクセサリーって、好みとかもあるからあんまり良くないかなと思ったんだけど、可愛いなって」
「とっても気に入りました! これ着けて可愛い女になります!」
「もう十分可愛いから、大丈夫だよ」
「ええーっ!」

突然の褒めに自分でも驚くほど大きい声が出てしまった。作戦室に私と来馬先輩以外いなくて助かった。特別な意味で言ったわけではないのは重々承知だが、嬉しいので全力で喜んでおく。そして早速もらったイヤリングを着けて、袋を大事に仕舞った。

「イヤリングもう二度と外しません!」
「いやいや、ちゃんと取らないと危ないよ」
「じゃあトリオン体のモデルに組み込みます!」

とにかく全力で喜びを表現すると、来馬先輩はくすぐったそうに微笑んで、再び私にアクアバルーンを贈呈してくれたのだった。


20210429
お友達の誕生日お祝いに書いたもの

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