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カフェテリアの椅子に座っていた私は、さぞ浮いた存在だっただろう。私を噂する白衣を着た者達の声は耳に届いていたが、どれも温かい瞳をしていた。
研究所に入れる人間は、研究員かその身内かに限られる。セキュリティがしっかりしているのだから、身内だと言っても、それなりに身元を調べられる。その上でここに入れたのだから、誰もが私を研究員の娘だと疑っていなかった。実際のところ、私が研究員の娘だという事実はどこにもない。どのようにして研究所に入ったのかは自分でもよくわからないが、私はここにいなくてはならないのだ。そして、見付けてもらわなくてはならない。
小一時間経っても、誰も私に話し掛けない。店員でさえ、私が長い時間ここに滞在していることに疑問を持たない。そういう仕組みになっているのだ。多分、明日もここにいたとしても、他人が私を見る目は温かいままなのだろう。
その時、突如私の前に向かい合うように座ったのは不動博士だった。そして、私はきっとこの人は特別な、選ばれた人間なのだと悟った。そうでなければ、私を本当の意味で意識することはないのだから。

「君はどこから入って来た?」

優しい口調だった。問い質されたことが嬉しくて、思わず微笑んでしまうと、以外だったのか、彼は困ったような顔をした。

「研究員の子供じゃないだろう」
「わかりますか?」
「何と無くだが」
「エリスといいます。貴方は?」
「不動だ」

この人が今後の未来を大きく変える人間。確かに、それだけの器を持っているように見えた。

「罪深い人」
「え?」
「遊星歯車は見付かりましたか?」

そう口に出せば、不動博士はひどく驚いた目をして私を見据えた。それもそのはず、見付けたのは昨日で、どこにも流出していない情報を、誰かもわからない娘が知っていれば、驚愕するに決まっている。

「不動博士、お話があります」
「あ、ああ・・・」
「場所を変えても?」
「そうだな。私の研究室にでも行こう」

白衣が翻り、その後ろを付いて行けば、周りは私を不動博士の血縁者だと思い込んだ。途中博士の助手らしい人とも擦れ違ったが、私を優しい眼差しで見詰めるだけだった。

「不思議な子だ」

不動博士が私の頭を撫でた。その時だろう、私は胸に小さな淡い感情が芽生えてしまったのは。それは生まれて初めての恋だった。

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