「あの、エリスさん?」
ステンドグラスの向こうは雨模様。分厚い雲に覆われた太陽はまだ微笑まないでいる。この古い図書館には司書のミシェルが働いていて、度々そこにエリスは訪れていた。今日も雨の中図書館に訪れたと思えば、何を思ったのか仕事をしていたミシェルの瞳を覗き込んでいた。
「ふふ、ボクの顔に何かついていますか?」
相変わらずのポーカーフェイスで冷静なミシェルだが、内心少しは動揺しているようだった。
「ミシェルさんの目、すごくキレイですね。」
眼鏡ごしに見える所謂オッドアイが珍しいのかエリスはこうして数分間眺めている。ミシェルはクスリと小さく笑った。
「嗚呼、これですか?」
ミシェルは意地悪に瞳を閉じた。エリスは「あ、」と小さな声を漏らすとむうと膨れてみせた。
「ミシェルさんの意地悪。」
「貴女があまりにも見詰めるものだから。」
ゆっくりと長い睫毛がくっついた瞳を開けるとまたオッドアイが煌めいた。エリスはふとミシェルの眼鏡に手をかけたが、その手はミシェルによって阻止されてしまった。
「何でですか。」
エリスは捕まれている手をもごもごさせるとミシェルはきゅっと握り締めた。
「ダメですよ。これを外したらボクは天使になってしまう。」
「ミシェルさんも冗談言うんですね。」
「さて、冗談でしょうか。」
クスリと笑うとぱっと手を離す。エリスは近すぎる顔を離そうとすると、何故かミシェルに阻止された。不審に思ったエリスがミシェルの瞳を見ると、まるで吸い込まれるように近付いてくる瞳がいきなり閉じたかと思えば唇に柔らかな感覚を覚えた。
「無防備ですよ、エリスさん?」
真っ赤になったエリスの頬を滑るように撫でるミシェル。後ろのステンドグラスからは雨が上がったのか眩い光がミシェルを包んでいた。
「(てん、しだ。)」
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