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「#幼馴染」のBL小説を読む
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この飲み会が終わったら、名字を家まで送る。そしてそのまま泊まる予定だ。

名字の衝撃的な告白を受けて早くも二ヶ月が経とうとしているが、未だにキス以上の関係に進めていない。
告白をすっ飛ばして抱けと抜かした名字だが、いざ付き合ってみると奥手どころの話ではなかった。キスしてやると「もっと」とせがんできたり、顔を真っ赤にしながら嬉しそうにくっついてくるが、ことに及ぼうとすると途端に「心臓が爆発しちゃう」だのなんだの言って、ぎこちない動きになる。やんわりとだが抵抗してくる時もあった。完全に拒まれているわけではないため、「何が爆発だ、しねーよ」と言ってソファーに押し倒し、服の上から胸を触れば、寿命間近の洗濯機のように暴れる心臓がそこに埋まっていた。下手したら本当に爆発するかもな、と思っていたところ、名字が軽い酸欠を起こし、その日はまた無心で皿を洗うハメになった。その後も何回か機会があったが、ことごとくタイミングが悪いことが重なり、今日に至る。
付き合う時に言った通り、名字とは身体目的ではない。セックスは自然な流れで出来ればいいかと思っていたものの、どんな流れだろうが名字の様子が不自然になる。名字がおかしくなるほど俺に魅力があるのかと問われたら、これまでの人生を顧みると不本意だが否定せざるを得ない。正直、こんな相手は初めてなので未だに扱い方がわからない。だが他人に相談するような内容でもないため、俺はこの二ヶ月で随分気が長くなったと自負している。

飲み会のメンバーはいつも通り風間、レイジ、雷蔵に加えて、堤と名字が参加している。テーブルの料理もあらかた胃袋に収まり、俺たちは酒を飲みながらどうでもいいことをつらつらと話していた。いつも通り最速で酔っ払った風間は据わった目で、余って冷めた唐揚げを箸で突いてぶつくさ文句を言っている。
隣に座る名字は甘い酒ばかり飲んでいる。こいつは風間ほどではないがあまり強くない。ふにゃふにゃしてきた辺りから、俺が代わりにタッチパネルで飲み物の注文をしてやっている。名字がカシオレだと思って飲んでいるそれはただのノンアルだということに気づかないまま、上機嫌に笑っているのを横目で見る。普段はしっかりしている名字だが、意外と抜けている部分があるのはあまり知られていない。俺の目が届く範囲でそういった面が出るのは別に構わないが、いないところで他人に知られるのはなんとなく癪に触る。
この中で俺と名字が付き合っているのを知っているのは堤だけだ。風間にだけは知られたくないため、名字と堤には口止めしている。酒豪の堤は問題ないが、酔っぱらった名字が口を滑らせるかもな、と思っていたが杞憂だった。酔っても理性はある方らしい。
俺は名字を送り届けるという任務があるため、酔いすぎないようビールの合間にウーロン茶を挟んでいるが、素面に近い状態で風間にウザ絡みをされたら正直キツい。いつ絡まれるかとヒヤヒヤしていると、散々突いていた唐揚げを一口で頬張った風間が、頬を膨らませたまま脈絡なくギロリと俺を睨みつけた。ついに始まった。

「おい諏訪、ウーロン茶なんて飲むな」
「うっせーな」
「男ならもっと煽るように飲め。そんなんだからモテないんだ」
「それは関係ねーだろ」
「お前は本当にモテない。諏訪を好きになる女がいるとは思えない」
「余計なお世話だってんだ!」

お前の斜め前に、俺のことが好きすぎて逆にセックス出来ない女がいるぞ、と思ってちらりと名字を見ると、今までで見た中で一番の笑顔をしていた。ンだ、その顔は。

「名字も呆れて笑っている。名字に笑われるとは、この世の終わりだぞ」
「おいレイジ、風間に水飲ませてそのまま締め落とせ。名字も笑ってんじゃねーよ」
「えへへ、ごめんなさい」

それでも破顔をやめない名字を睨むと、肩を竦めてノンアルのカシオレに口をつけた。ため息を吐いて席を立つ。

「便所行ってくる。名字、お前は大丈夫か」

このまま抜けてもいいかと思って名字に話を振る。すると名字よりも先に雷蔵が何かに気づいた表情をして、にやりと笑った。勘がいい奴だ。口パクで「うるせえ」と悪態を吐く。グラスを置いた名字は、相変わらずの笑顔で俺を見上げた。

「私、さっき行ったから大丈夫!」

意図が全く伝わっていない名字は、「デザート食べたいな」とメニューを広げ始めた。風間も一緒になってメニューを見て、すぐさま呼び出しボタンを押されたらしい。背中越しに「まだ決めてないのに!」という名字の声が聞こえた。

「諏訪さん。オレも行きます」

後ろから追い掛けて来た堤と共に、何が楽しいのか男二人で便所に向かう。その道中、堤は拳を口元に当てて必死に笑いを堪えているので、軽く蹴りを食らわせると、また肩を震わせて「すんません」とニヤけた。

「人の彼女さんにこんなこと言っていいのかわかんないですけど、名字さん本当に可愛いですね」
「あれはあれで大変だぞ」
「名字さんの片思い時代から知ってるので微笑ましいですよ」

後で聞いた話だが、どうやら名字は堤に軽く相談紛いなことをしていたらしい。堤はそんな素振りを全く見せなかったので、付き合い始めて「おめでとうございます」と言われた時は驚いた。

「あいつは俺の何がいいんだかな」

好きだとは言われたが、いつからだとか具体的な話をする余裕がなかったようで、その辺は何も知らされていない。本人に訊くつもりもないが、多少は気になる。

「オレ、聞きましたけど、知りたいですか?」

並んで用を足しながら「んだよ」と催促すると、堤はニヤけヅラで言う。

「全部って言ってましたよ」
「っかー! ふざけてんな!」
「名字さん、本当に諏訪さんのこと好きですよ」
「ンなことわかってんだよ。勘弁してくれ……」

済ませて手を洗っていると、少し遅れて堤が手を洗い始めた。

「ぶっちゃけ、諏訪さんって名字さんの気持ち気づいてました?」
「ああ? あー、まあな」
「ですよね」

正直、何度か「もしかして」と思うことがあったが、自惚れることはなかった。勘違いして自滅するのもカッコ悪いし、名字は密かにモテる女だ。
以前麻雀をしていた時、酔っぱらった冬島のおっさんがボーダーの中で嫁にするなら名字だと言っていて、東さんも笑いながら同意していた。それだけでなく、年下連中からも妙に懐かれている節がある。
そんなあいつが俺に気がある素振りを見せた時は内心「マジか」と思ったし、正直それがきっかけで気になり始めた。だが意識するようになってから名字の内面に惹かれていったのも事実だ。
付き合ってみると、一緒にいて居心地はいいし、家の中だからこそわかる、気が利く部分もかなりある。料理を持ってきた時なんかは、絶対に口には出せないが家庭を想像するまでした。
あの日「抱いて」と言われ、キスしている最中は正直ぐらついた。だが名字はそんな簡単に消費していい女ではない。まさかここまでお預けを食らうとは思っていなかったが。
はあ、と大袈裟にため息を吐いて便所を出る。酒の力に頼ってセックスをしたくないが、名字の判断力をある程度鈍らせないと一生抱けない気がする。さすがに彼女と同じベッドで寝るのに、手を出せないのはいい加減キツい。
テーブルに戻ると、名字と風間、雷蔵はアイスを頬張っていた。スプーンを咥えたまま、帰ってきた俺を見つけてにっこりする名字に、「う゛」と変な声が出る。可愛いじゃねえかこの野郎、と心の中で呟いて椅子に座る。

「諏訪、食い終わったら会計でいいか?」
「いんじゃねえか。お前明日任務?」
「明日は支部で雨取の指導だ」
「弟子いると大変だな」

奴らがアイスを食べているうちに最後のタバコを吸っていると、名字がこちらをじっと見てきた。

「何だよ」
「諏訪くん、一口アイス食べる?」

まだ酒が抜けていない名字が、恥じらいながら言った。ここで食べてしまったら、確実にバレる。

「女の子って本当に一口あげるみたいなの好きだよね」
「やめておけ。スプーンがタバコ臭くなるぞ」

周りに茶々を入れられながらも名字がアイスをすくうので、「タバコ吸ってるからいらねぇよ。自分で食え」と制すと、途端に残念そうな顔をした。再び「う゛」と声が出る。

「女の子の好意は受け取っておけばいいのに」
「うるせぇ」
「なら俺が食うぞ」
「は?」

スプーンを持ったまま行き場がなくなっていた名字の手を取った風間は、身を乗り出してあろうことか名字のアイスを食いやがった。普段なら絶対にそんなことはしないが、酔っている風間に理性などない。

「風間ァ……!」
「イチゴもうまい。バニラもうまいぞ。食え」
「諏訪さん、落ち着いて」
「こいつ本当に信じらんねぇ。名字、スプーン変えろ」
「アイス如きで大袈裟だなおまえたち」

他人の恋愛ごとに疎いレイジは、不思議そうな顔で俺たちのやり取りを見ていた。名字は普段なら自分の感情を隠す場面だが、酔いのせいか明らかにショックを受けた表情のまま固まっている。こんなことなら大人しく食ってやればよかった。
新しいスプーンに取り替えてやると、名字は申し訳なさそうにしつつ、若干ニヤけた表情で俺のことを見てきたので、「へいへい」と頭にぽんと手を乗せると、「ふふふ」と心底嬉しそうに笑った。調子が狂う。天井に向けて煙を吐き、まだ吸えるタバコを灰皿に押しつけて伝票を取る。

「先会計しとくぞ。後で割り勘な」
「俺も行く」

堤の次はレイジがついて来た。深妙な面持ちで、窺うように言う。

「もしかしておまえら、そうなのか?」
「あー、まあな」
「いつからだ」
「二ヶ月前ぐらいか。風間には言うんじゃねーぞ。めんどくせーから」

従業員の姉ちゃんに声を掛け、支払いを済ませる。テーブルに戻り、アイスを食べ終えて雑談していた奴らに「一人三千円」と声を掛けた。各々財布を出し始める。名字は財布を開くと、「あ」と顔をしかめた。

「今大きいのしかない。おつりある?」
「後でいい」
「そう? ごめんね」

名字を除いた奴らから金を回収し、店を出る。完全に出来上がってぼんやりしている風間は雷蔵がどうにかするようで、すんなり解散出来たのはラッキーだった。風間はおそらく今日の後半部分は忘れるだろうが、アイスの件は次に会った時にシバく。
隣を歩く名字は、先程のテンションとは打って変わって、眠たそうな瞳で俺について来る。人がいなくなって気が抜けたのだろう。こいつはそういうところがある。抜けた一面を俺に見せられるようになったのは進歩だ。

「大丈夫か?」
「ん、諏訪くん」
「ぁん?」
「腕、組んでいい……?」
「いちいち許可取んな」

俺の腕に控え目に手を伸ばしてきた名字は、照れ臭そうに笑った。手を繋ぐのはガラじゃないので、こうしてもらう方が有難い。

「なんか夢みたいで、未だに信じられないな」
「はあ?」
「こうして諏訪くんと並んで歩くの、ずっと憧れてたから」
「またそれかよ……」
「諏訪くん知らないから。私がどれだけ諏訪くんのことが好きなのか」

きゅっと腕を掴む名字の手に力がこもり、熱が伝わってくる。俺の何がいいのかは知らないが、名字がどれだけ俺を想っているかはわかっているつもりだ。むず痒いが、これだけの好意を一身に浴びるのは心地好さも感じる。
照れ臭くなってがしがしと頭を掻き、その手で名字の頭を引き寄せて口づけた。周りに人はいないが、外でするとは俺も大分余裕がない。

「帰んぞ」
「う、うん……」

今夜も名字の心臓は大変なことになるだろうが、爆発するならとっととしちまえ。ただ、また具合が悪くなっても対応出来る様に理性だけは残しておいてやる。
再び歩き出すと、俺の腕に引っ張られた名字の靴の音が高く響いた。歩く速度に気を遣いながら、真っ直ぐに名字の家に向かって歩みを進める。



名字の家は相変わらず片づいていて、あるべき位置に物がきちんと置かれている。目に入る情報量が簡潔なところが、居心地の良さに繋がっているのだろう。
名字は作り置きの麦茶を俺に出すと、会話もそこそこに風呂に入ってしまった。シャワーの音が心臓に悪く、居た堪れなくなりベランダに出てタバコを吸い始めてしばらく経つ。
最初のうちは空き缶に吸殻を入れていたが、捨て難いからやめてほしいと言われ、蓋付の灰皿を購入した。名字の部屋に不釣り合いなそれは、ベランダ付近にひっそりと置かれている。
正直、風呂に入る前に押し倒してやろうかと思うほど、玄関前までの俺は昂っていたのだが、この部屋に入るとそんな気も失せてしまった。名字も俺としたくないわけではないのだから、最初くらいは望むようにしてやるか、という思いと、果たして名字は経験があるのだろうかという懸念からだった。
この問題は前々からついて回っていて、未だに真相は闇の中だ。俺の見立てでは名字は処女ではない。出会ってから彼氏がどうのという話は聞いたことがないが、さすがにこれまでに彼氏はいただろうし、未経験の奴が誘ってこないだろう。あれだけ俺のことが好きだと言う女の初めてが、顔も知らない奴に奪われたというのは若干腹立たしいが、成人してるしそんなもんかとも納得出来る。ただ、そいつは今後一切俺の前に姿を現すな。どちらにせよ名字にする対応は変わらないので、俺から真相を訊いてやるつもりはない。

「諏訪くん、出たよ。次入るよね?」
「今行くわ」

見慣れたパジャマを着た名字は、俺の着替えとタオルを手にしていた。前に置いていったTシャツと短パン、下着がきっちりと畳まれていて思わず目を背ける。タバコを灰皿に押し込み、それらを受け取ってさっと風呂に入る。
やけにいい匂いがするシャンプーの匂いやらなんやらを纏わせながら風呂から上がり、下だけ履いて普段はしないドライヤーで髪を乾かした。ガラにもなく緊張した面持ちの俺が鏡に映っていてクソダサい。はあ、と息を吐いてドライヤーを片し、シャツを着て風呂場を出る。

「名字?」

名字の姿が見えないと思ったら、床に直接座っていたようでソファーの影になっていた。正面に回ると、名字はぽやんとした目で俺を見上げた。机の上には何かの缶が置いてある。

「なっ……」

缶を持ち上げると、ちゃぷちゃぷと水音がして、ほとんど空に近い状態だった。しかもストロング系のチューハイだ。この短時間で飲み切ったのか。居酒屋でアルコール量を管理していた俺の配慮は徒労に終わった。

「ざっけんなよ……」

しゃがみ込んで項垂れる。すると名字はゆっくりと近づいて来て、俺の頭を抱き締めた。酒と緊張のせいか、どくどくと脈打っているのが伝わってくる。

「卑怯で申し訳ない……」
「卑怯とか思ってんなら、まだその時じゃねーんだろ。今日はやめとくか」

胸に埋もれながら言うセリフではないが、自分の理性に感動すら覚える。今名字を抱き締めると意思が揺らぎそうなので、しゃがみ込んだままの体勢でいると、名字は俺を軽く突き飛ばし、床に押し倒した。

「おまっ、名字っ、んっ!」

身体に重なるようにのしかかった名字は唇で俺の口を塞ぐと、唇を食んだり、舌を絡めてきた。人工的なレモンの味がする。こいつはキスするのが好きなようで、一度始まると結構長い。
何で俺が押し倒されなきゃなんねぇんだ、と思いつつ、名字の身体の柔らかさと、鼻にかかったような吐息に我慢が出来なくなり、腰と頭を抱き締めて応戦した。
ふいに唇を離した名字は上半身を起こすと、斜め下を向きながらはらりとパジャマを脱いだ。逆光になってよく見えないが、今日のために新調したのであろう綺麗目の下着は、胸の下でクロスするような紐がついていて、それが名字の身体に若干食い込み、柔らかさが見ただけで感じ取れる。

「諏訪くん。私もう我慢出来ない……」

誰のせいでこうなってると思ってんだ、と舌先まで出たが、ごくりと飲み込む。本心なんだろうが、煽っているという自覚をもっと持ってほしい。

「わかったから、ベッド行こうぜ」

こくりと頷いて俺から退いた名字の腕を引っ張り、寝室の電気をつけた。名字をベッドに転がして、まじまじと身体を見る。名字の肌は顔から胸にかけてうっすら赤く色づいていて、それが酒のせいだとしても艶かしい。名字は明後日の方向を見ながら口元を手で隠し、身動いだ。

「諏訪くん、電気消して……」
「後でな。つーか、これ見せたかったんじゃねーの?」

下着の紐を軽く弾くと、名字は口を結び、羞恥で涙目になった。パジャマのズボンも脱がしてやる。下着姿になった名字は、相変わらず俺を見られず、身を硬くしていた。
首筋に口づけると、名字の身体がぴくりと動いた。風呂上りで温まった身体は、それ以上の熱をこもらせている。
逃げられないよう両腕を掴み、耳まで舐め上げると名字が声を漏らした。耳が弱いのは前に試したから知っている。俺の下で震えている名字は、声を出さないよう必死に堪えていた。最後に鎖骨辺りに吸いつき頭を上げると、名字がきつくつむっていた目をゆっくりと開いた。上気した表情で息をする名字にキスをする。さすがにここまで来たらもう止められない。いや、また名字の体調が悪くなったらやむを得ないが。
唇に噛みつきながら身体の下に手を回すと、名字はそっと背中をしならせた。せっかく用意したであろう下着だが、もう十分堪能したので取らせてもらう。肩から抜き取り、キスしたまま両胸に手を這わせた。すべすべしていて柔らかく、温かいそれを揉みしだくと名字は息をくぐもらせ、俺の肩に手を乗せた。感触を楽しみながら、手のひらに当たる硬くなった先端を親指でいじる。キスするのを止め、胸を舐め上げると名字はまた声を漏らした。名字の心臓はやはり激しく脈打ち、今にも壊れそうだ。

「もうむり、恥ずかしい……。ベイルアウトしたい……」
「すんな。どこ行くつもりだよ」
「だってもう、本当にどうにかなっちゃうから……」

名字の呟きは空気感を壊しているが、そこが可愛いところでもある。そう言ってやれば名字は喜ぶのだろうが、可愛いとか歯の浮くようなセリフは俺に似合わない。

「どうにかなったら骨は拾ってやるよ」

意地悪く笑うと、名字は「うう……」と俯いてしまった。
隣に横たわり、腕枕のような形で名字の頭の下に腕を通すと、名字が密着してきた。もう片方の手を身体に沿って這わせる。内腿を軽く撫でると、名字は足を閉じて俺の手を挟んだ。柔らかい腿に指を食い込ませながら付け根に到達する。下着越しに触れたそこはじっとりと濡れていて、名字は俺の肩に額を当ててびくついた。下着の中に手を入れれば、名字の吐息混じりの甘い声が直接肩に掛かった。色々と込み上がるものを抱えながら、名字のもので指先を濡らす。

「なんかあったら言え」
「うん……」

探るように指を押し込める。名字の中は熱く、指が溶けるのではないかと錯覚した。数回抜き差しして指を増やす。名字の呼吸が荒くなり、しがみつかれる。

「どこがいいか教えろ」
「わ、わかんない……あっ」
「わかんねーわけねーだろ」
「諏訪く、んっ! あっ、あ」
「ここか?」

反応があった場所を押すと、名字が声を荒げた。身体を仰向けにさせ、行為を続ける。声を抑えるために口元に添えられた手を、腕枕していた方の手で払い除けると、名字はその手をきつく握った。丁度名字を片腕で抱き締めるような形になる。俺の腕の中で必死に快感に耐える名字は限界が近いのか、へその下辺りが痙攣し始めた。

「だめ、諏訪くんっ、あっ、すわくん! すき、すきっ、すき、諏訪くん好きっ……」

身体全体をびくつかせながら絶頂した名字は、ふうふうと呼吸を整えようと必死になっている。イッた時に発した言葉があまりにも直接的すぎて、こちとらぐらぐらして大変だが、あれも無意識なのだろうか。もっと丁寧にしてやるつもりだったが、さっきの名字の姿を見てしまった以上、もう限界だった。身体を起こしてゴムの箱を探す。
すると、くたっと横たわっていたはずの名字がゆっくりと起き上がった。探すのを手伝うのかと思っていたら、服の上から股間を撫でられた。

「……名字?」
「私もしてあげたい……」
「あっ、待て」

短パンをずり下げられ、下着越しに名字の唇の温かさを感じた。遠慮がちに撫でられるのがもどかしい。

「諏訪くん、座って……」
「ん……」

Tシャツと短パンを脱ぎ捨て大人しく座ると、首や胸を舐められ、足の付け根を撫でられる。ただでさえ興奮しているのに、まさか名字がフェラしたがるとは予想外だった。へその下の毛を撫でた名字の手が段々と下がってくる。恥じらいながら俺の下着をずらした名字は、身を低くすると亀頭に口づけ、舌を出した。
さっきまであんなに恥ずかしがって喘いでいたはずだが、どうしてこうなった。いや、確かに名字は思い立った時の瞬発力がある方だが、なんてことを考えていたが、名字の舌遣いに思考が溶けてくる。上手いわけでも下手なわけでもないそれが逆に良い。俺の股間に顔を埋める名字を見る。耳に掛けていた髪がはらりと落ちたのを、また掛け直す姿に何かが飛んだ。

「名字……!」

顔を上げさせ、押し倒して名字の唇が歪むようなキスをした。そそり勃つ俺のものを名字の腹で擦る。名字は俺の首に腕を巻きつけ、決心がついたようだった。挿れてしまおうと思ったが、まだゴムが見つかっていない。片手でベッドボードを弄ると、隠されるように置かれていた箱があった。がっと掴んで中身を取り出す。

「もう挿れんぞ」

ゴムを着けながら言うと、名字は浅い呼吸をしながら頷いた。自ら足を開き、胸元に手をやって身構えている。先端を押しつけると、名字が小さな声で「優しくして……」と呟いた。はっと我に返る。

「ワリ、怖かったか?」

少しでも安心させようと頭を撫でると、名字は幸せそうな表情で首を振った。

「諏訪くんだから大丈夫」

そこまでの信頼を寄せてもらって光栄だが、明らかに理性がぶっ飛んでいた。はー、と長く息を吐く。何が自分の理性に感動を覚えるだ。一番肝心な時にこれでは全く意味がない。仕切り直して名字に宛てがう。

「ほんとに、痛かったりしたら言ってくれ」
「わかった。きて、諏訪くん……」

にゅぐ、という音を立てて、名字の中に押し込んでいく。名字は小さく息を吐いて、俺を受け入れた。全てが収まり、名字に倒れ込む。キスをすると、名字の瞳からぽろっと涙が溢れた。さっきまで張っていた涙の幕が剥がれ落ちたようで、出来るだけ優しく拭ってやる。

「泣くなよ」
「ごめん、幸せで……」
「付き合う時も泣いてたよな、おめーは」
「私が泣くのは諏訪くんとのことだけだよ」
「んなわけねーだろ」
「本当だもん」

ふふふ、と名字が笑った。慣らす時間を取るための何でもない会話だが、多少緊張の糸が解けたらしい。ゆっくりと腰を引くと、名字の吐息が漏れた。次第に動きを速めていく。名字の余裕もどんどんなくなっていき、喘ぎながら俺の首元に腕を回した。耳元で名字の声を聞いていると、また理性が削られていく心地がする。名字の上体を起こし、膝の上に乗せて抱き締める。すると名字が、思いついたように「あ」と言った。

「電気……」
「あー……」

名字の全てを見逃さないためにも消してやるつもりは毛頭なかったが、急に思い出してしまったらしい。名字は拗ねたような表情をして、俺に身を傾けた。

「私、わかっちゃった。諏訪くんの『後で』って、ずっと来ないんだ……」
「おい、今んなこと言うか?」
「なんかあったら言えって言った……」
「おめー、やっぱ酔ってんな」

む、と顔をしかめた名字は、俺を押し倒して前後に腰を動かした。「んっ」と気持ち良さそうな顔をするので、腰を掴んで下から突き上げると、途端に「やっ、だめっ」と恥ずかしそうに口元を押さえた。
なんとなくこいつの性格がわかってきた。自分がするのはいいが、俺にされるとダメなようだ。思えば最初からそうだった気がする。だからと言ってやめてやるつもりはない。
再び名字を押し倒して突くと、声質が変わってきた。膣が締まってきて、足も伸びている。

「諏訪くんっ、もうっ、あっ!」
「ん」
「諏訪くん、諏訪くん!」

びくびくと痙攣して、名字が果てた。中がうねり、俺もどんどん高まってくる。先程まで軽口を叩いていたのが嘘のように、辺りが白けて名字の姿しか見えない。休憩もそこそこに律動を再開すると、名字はぎゅっと目をつむり、枕を力一杯に握り締めていた。

「なまえ」
「んうっ」
「好きだ」

そう言うと名字が嬉しそうな表情をして、俺の頬を両手で包んで唇を寄せた。唇を交えながら名字をきつく抱いて、俺も果てた。

空腹で目を覚ますと、名字は隣で寝息を立てていた。ベッドから抜け出て、名字の肩に布団を掛けてやる。欠伸をしながら床に散らばった服をのっそりと着て、時間を確認すると九時だった。いつもなら名字は起きている時間で、俺が起きるよりも前に鮭やら目玉焼きやらを焼いているが、昨夜のこともあって疲れているのだろう。ベランダで寝起きのタバコを一本吸い、寝室に戻る。
タバコを買うついでにコンビニで何か買ってきてやるかと、寝ている名字の頭を軽く叩いた。

「名字、何か買ってくっけど食いてーもんあるか?」

身動いだ名字は、もにゃもにゃと口を動かしている。聞こえねーよ、と言うと、ゆっくりと目を開けた名字は何故か申し訳なさそうな顔をしていた。

「言わなきゃいけないこと、ある……」
「あ? ンだよ改まって」
「わたし、ほんとは朝ごはん食べられないにんげん……」
「はあっ!?」

これまで何回か泊まったが、一緒に朝飯食ってたよな、と思い返して、ふと名字の食べる姿が脳裏に過った。その時は全く気にしていなかったが、米もほとんど食っておらず、目玉焼きやベーコンを少しかじっていただけだった気がする。わなわなと身体が震えて、衝動的に名字の頭をがっと掴んだ。

「だからそういうことを言えっつってんだろ!」
「いたい!」
「おめーはなあ……」

ということは、こいつは俺のためだけに無理をして朝飯を食っていたことになる。はあ、と溜息を吐き、名字の頭を離す。

「じゃあコーヒーか?」
「空腹の時にカフェイン摂ると気持ち悪くなっちゃう……」
「……オレンジジュースは?」
「最高です……」
「買ってくるから寝てろ」
布団の上から肩口をぽんぽんと叩くと、名字がすっと布団の中に隠れた。
「どした?」
「幸せすぎる……」
「……そうかよ」

財布とスマホをジーンズのポケットに入れ、名字の家のカギを借りて外へ出る。空は特別清々しいわけでもなく、雲もそれなりに出ていて見慣れた景色だ。ドアにカギを掛け、それもポケットにねじ込み、コンビニへと向かった。



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