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「嫌い……!」
口をついて出た言葉に、自分の心臓が締め付けられた。昔からそうだ。本当は思ってもいないのに、照れ隠しでついひどいことを言ってしまう。素直に謝ることができればまだマシだが、そんなこと一度もできた試しがない。そのせいで崩れてしまった関係も少なくないというのに、いつまで経っても学ばない自分に嫌気がさす。
そのうち私の周りからは誰もいなくなるんだろうな、と思いながらこれまで生きてきた。自分でも、こんな性格の悪い人間からは離れた方がいいと思う。それなのに、影浦雅人という人間は私から離れていかなかった。それどころか、現在私の一番近いところにどっかりと居座り続けている。

私に「嫌い」と言われた影浦は、「そうかよ」と呟いて悪態を受け流した。拗ねているわけでも怒っているわけでもない。ただ事実を正面から受け止めて、傍らに置いたみたいに、素でそう言ったのだった。
影浦は不思議な男だ。見た目通り粗野で短気なところがあるのに、私の悪癖にわりと寛大だったりする。今まで接してきた人たちは、最初は我慢したり笑って誤魔化してくれた。しかし当然だが、だんだんと許容できなくなって冷たくなったり、逆上して離れていった。そうなって当たり前だ。だから私は、影浦にこんな態度を取られるとどうしていいかわからなくなってしまう。
「っ、あんた、好き勝手言われて悔しくないの? 本当はムカついてるくせに。たまには言い返したら?」
本当は「いつもごめん」と言いたいのに、口から出たのは挑発だった。いっそのこと私が泣くまでなじればいい。口から謝罪がこぼれ落ちるまでボコボコにしてくれたら、私の気だって晴れる。実際にそうされたら悲しいくせに、そんなことを思ってしまうなんてバカみたいだ。
影浦を睨みつけると、彼は面倒くさそうに後頭部を掻いたり、腕をさすった。癖なのか、影浦はこうした虫刺されを気にするような動作をよくする。
以前、肌が痒いなら保湿すれば、とからかったら、「そんなんじゃねぇよ」と思い詰めたような顔をされた。さすがにデリカシーがなかったかと反省して、それ以来この癖には触れないようにしている。
影浦は気怠げなため息を一つ吐くと、ずいっと私に一歩近付いた。鋭い瞳に睨まれて、身体が硬直する。
「おめーよぉ」
「な、なによ」
ついに怒られる。影浦にまで嫌われたら、私はいよいよひとりぼっちだ。
こんな私のことを好きだと言ってくれた時は本当にうれしかったのに。素直になれなくて告白の返事を悪態で返してしまったことだって、まだ謝れていない。顔を合わせたらひどいことばかり言ってしまうけど、本当は影浦のことを大切に想っているのに。
ガッと頭を掴まれて、反射的に目をつむった。すると少し乱暴に頭を引き寄せられて、唇を塞がれた。
「んうっ」
思わず目を開ける。近すぎてよく見えないが、影浦が私のことを薄目で見ているのがわかった。噛み付くように唇をもてあそばれて、体重をかけられる。無意識に退いていると、背中が壁にぶつかった。ずるずるとなし崩されて、床にへたり込む。その間も影浦はキスをやめることなく、私の口の中で暴れ回っていた。
「んっ、まって、かげ……。待ってってば!」
影浦の平べったい身体を押し退けると、ようやく唇が離れた。ヤンキー座りで私の顔を見ている影浦と目が合い、急激に恥ずかしくなって、濡れた唇を拭いながら影浦を睨みつけた。
「なんでこんなことするの? 腹いせ?」
すると、影浦は一瞬ぽかんとした表情をした後、ゲラゲラと笑い出した。何がツボに入ったのかわからず、今度は私がぽかんとしてしまう。
「バカだろ」
「は、はあ?」
「おめーはよく自分のこと口が悪いだのなんだの言ってっけどよ。おめーあれだろ? ツンデレってやつだろ?」
指をさされてくつくつと笑われて、内側から何かがぶわりと溢れた。
「ツン……! キモ! なにそれキモいからやめて!」
人差し指を掴もうとしたら、ひらりとかわされてしまった。さすがの反射神経だ。よく知らないが影浦はボーダーの中でも強い方らしいし、私の不意打ちの攻撃がいつもかわされてしまうのも頷ける。
「顔赤すぎんだろ」
「赤くなってない!」
「なってんだよ」
私のことをひとしきり笑った影浦は、にやりと口角を上げて言った。
「おめーが考えてることなんざお見通しだ、ボケが」
嘘だということはわかっている。けれど本当にそうならいいのにと願いながら、私は「ほんと、そういうところ大嫌い……」と呟いて、影浦の襟を引き寄せた。


20230901

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